第7話
目の前に現れた
__なんで、ここに……?!
友里は呆然としてそれを見つめる。
吸血鬼の手が、庄司の首にかかろうとした、その時。
どっ
「ぐっ……?!」
庄司の捨て身の体当たりが吸血鬼の鳩尾のあたりに突き刺さった。予想していなかった吸血鬼は、それをもろに食らい、うめき声をあげる。
「優子!!子供たちを頼んだ!!」
庄司は、そう叫ぶと体当たりでバランスを崩した吸血鬼をさらに押して転ばせる。
「待って、どうするの?!」
母は何をどうするとは聞かなかった。けれど、庄司は、吸血鬼から顔を背け、短く言う。
「行って。」
それを聞いた優子は、黙って庄司に背を向けた。そして、友里と勇介の手を引っ掴むと、ファミレスから離れるように駆け出した。
ゴキッ
数メートル走ったところで、何か嫌な音を聞いた友里は、走りながら後ろを見る。……否、見てしまった。
「……っ父さん!!」
あらぬ方向へ曲がった庄司の首。
焦っているはずなのにどこか冷静な友里の脳は、父が死んだことを理解する。
彼の首を曲げたのは、黒いマスクをつけた、あの吸血鬼。
彼の真っ赤な瞳は、父の、庄司の死に顔をただじっと見つめていた。
◇◆◇
あのファミレスから、どれだけ離れたのだろう。
息が切れ始め、足が疲れてきたその時、母は周りを少し確認してから、走っていた足を緩め、やや早歩きくらいの速度になるった。
周囲は、火の海。道路の脇に生えていた雑草を焦がし、夜空を赤く染め、煙は私たちを容赦無く追い詰める。
ここは、小学校への通学路だった場所だ。
黒い使い捨てマスクをつけた吸血鬼は、なぜかこちらを追ってこなかった。
火の手がこちらまで来ている以上、まだ安全ではないが、危機は少しだけ遠ざかったと考えてもいいのだろうか。
__いや。そうじゃない。まだだ。
友里は、母に血が止まってしまうのではと思うほど強く握られた右手首をにらみ、眉間に深くシワを刻む。
__考えろ。考えろ。考えろ。考え……
脳裏に、父の死に様が浮かんでは消える。父のそれが、兄の勇介に、母に、友里自身に置きかわり、得体のしれない感情が浮かび、自身で否定する。
それを、幾度となく繰り返し、そして、思いつく。
「……あっ」
友里は小さく声を漏らした。
「どうした?」
勇介が優しく友里に問いかける。
「母さん。」
友里は、母の背中に声をかける。
返事はない。優子はただただ前を見て、二人の手を強く握りしめて、前へ進む。前へ、進み続ける。
母の背を見つめながら友里は言葉を続ける。
「小学校、行っちゃダメだ。絶対くるから、吸血鬼が。」
口がうまく回らない。けれど、確かに伝える。
すると、母がピタリと足を止めた。
雲ひとつない夜空に浮かぶ満月は、まだその輝きを増していた。
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