第3話

『注意』

 作品の都合上、弓道の表現があります。

 ですが、作者は弓道未経験者です。間違った知識や思い込みが多数存在しますが、生暖かい目でご覧ください。

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 友里はランドセルに適当に荷物を詰めると、一人で家に帰っていく……訳ではなく、道場へと向かっていった。


 学校からおおよそ三百メートル。近いとも、遠いとも言い難いところに、その道場はある。平屋でプレハブの建物。建物自体はボロいものの、整備は行き届いているため、見てくれはあまり悪くない。

 この建物、もとい、町立武道館は、剣道場と柔道場を半分ずつ中に兼ね備えている。小さな大会を行うこともあるらしいが、友里はそれに参加したことはない。

 友里は、武道館の中に入らず、建物の裏手に回る。砂利が撒かれただけの小道を数歩歩けば、すぐにそれは見つけられる。

 

 弓道場だ。

 建物の大きさや、町の資金の都合上、お世辞にも整った環境とは言えないが、弓道場の先生方や生徒たちが使うたびにきちんと手入れをしているため、こぎれいな状態を長く保っている。

 友里は、母の友人が先生をしている弓道教室に週2日ほど通っている。

 建物に入る前に、軽くお辞儀をしてから靴を脱ぎ、さっさと入る。


「あら、友里ちゃん。学校はもう終わったのね。」


 奥から、長い黒髪をポニーテールにまとめた、二十歳過ぎくらいに見える女性が友里に声をかけてきた。ちなみに、服装は上下青のジャージだ。


「こんにちは、秋本先生。」


 友里は秋本にぺこりとお辞儀をした。

 秋本はにっこりと微笑み、「今日も頑張りましょうね。」というと、女子更衣室、もとい、物置の方へ歩いて行った。


 友里も、靴を木製の靴箱にかかとを整えてしまうと、女子更衣室に向かった。


 ◇◆◇


 弓道着に着替えた友里は、母に買ってもらったレザー製の赤い矢筒を掴んで射場に向かう。

 射場の木製の壁に立てかけてある複数の弓をみる。そこには、カーボン製の弓や、グラスファイバー製の弓など、複数の種類の弓が立てかけてあった。

 友里は、その中から、今まで使ったことのない弓を選ぶ。


__今日は、この竹弓を使おうかな。


 ツヤツヤに磨かれた竹の弓を選び、近くの箱の中に入った矢を4本とると、友里は秋本に軽く声をかける。

 その頃には、ほかの生徒たちもだいぶ集まってきていた。


 稽古の、始まりだ。


「黙想」


 先生の声を聞き、友里は目を閉じる。


 ◇◆◇


「あら友里、今日は竹弓を使うの?」


 秋本がストレッチを終えた友里に声をかけた。


「はい。まだ使ったことがないので。」

「竹弓、難しいわよ。しなるから少しの力で矢を飛ばせるけど、遠くには飛ばないから。」

「そう、ですか。」


 友里は、教えてもらった礼節をしっかりと守りながら、弓に矢をつがえる。

 風は東の方から少しだけ吹いている。狙うのは、二十八メートル先の、霞的。整えられたあずちに、等間隔に並べられているうちの、一枚。

 

 友里は、前回、前々回の経験を思い出す。先生のセリフを参考にしながら、体の向き、腕の引き方、視線、姿勢。筋肉の一筋までをコントロールし、集中して弓を引き、そして、離す。


 パァン


 軽い音がして、的の右端に矢が突き刺さった。


「……確かに、難しいですね。手の内がうまく使えませんでした。」

「……あなた、本当にすごいわね。正直、少し引くわ。」


 秋本は少し残念そうにしている友里を見て呆れたようにそう言った。




 ちなみに、余談ではあるものの、この弓道教室は対象年齢が小学五年生からである。教室を開く際、どうしても人数が足りないということで友里は入っているため、大会には一度も出たことがない。

 当然、同じ年齢の人は誰ひとりいない上に、年上の生徒たちも秋本に鍛え上げられた強者ばかりなので、友里はいまひとつ比較ができていない。

 一度だけ、この教室で弓道体験をした経験者は、こう語る。


「秋本弓道教室、すげえ怖い。」


 と。

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