第4話

「お疲れ様でした。」


 友里は秋本にそういうと、ランドセルと弓道着の入った袋だけを掴んで家に帰る。

 道場から少し離れたところで、友里はスマホの電源を入れた。

 連絡用にと母から渡されたスマホには、いくつかのメールが届いていた。某無料通話アプリは一応入っているが、ほとんど使われていない。友里は、届いていたメールをみる。

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From: 母

To :私

件名:今日の晩御飯について


 今日は捜査の都合上、家に入れないそうです。そのため、晩御飯は久しぶりに外食をしましょう。弓道の稽古が終わったら、ファミレス「カスト」に来て下さい。

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 母からだった。

 友里はそれを読み切ると、母に「了解」とだけ返し、スマホの電源を落とした。

 カストは、ハンバーグステーキの美味しいファミレスだ。ドリンクバイキングも割と種類が豊富なため、家族でファミレスに行くときには大抵ここになる。

 また、友里の家からも町立武道館からもそれなりに近い距離にあるため、待ち合わせにも都合がいい。


__今日は、何を食べようかな……!


 友里は半ばスキップでカストに向かった。


 ◇◆◇


 秋田家を捜査していた警察の二人は、フローリングに撒かれた血の海を見て、顔をしかめる。

 茶髪の軽薄そうな男が、隣の黒髪の男に声をかける。


「……なあ、この血の量、おかしいよな。普通死んでるはずだぞ?」


 黒髪の男は、書類の束を見ながら、茶髪の男に言い返す。


「吸血鬼だろ。十字会じゅうじかい__あ、いや、吸血鬼取締委員会がこの近辺で吸血鬼を取り逃がしたっていう報告があったらしいじゃん。」


「吸血鬼だったとしてもおかしいって。あいつら、死んだら灰になるから血液なんて残さないし。2代目以下だったら絶対死んでるし。」


「……そういえば、ここに住んでいる子供が怪我をしている人がいたから応急処置をしたっていう報告があったな。」


 それを聞いた茶髪の男が目を見開く。


「まじか。吸血鬼を助けるのって、犯罪じゃなかったか?」


「ギリギリセーフかな。その子供未成年だし、吸血鬼だってわかってなかったらしい。」


「でも、こんな量の血を見て親を呼ばないって……」


「それな。『喉が渇いて、リビングにきたら、大怪我をしている男の人がいたので、応急手当てをしました』って、普通、助けを呼ぶよな。」


 黒髪の男は、「そのせいで俺たちが報告に四苦八苦するんだ……」とぼやく。


「まあ、いいや。早く仕事を終わらせて帰ろうぜ。」


 茶髪の男は黒髪の男から書類を受け取ると、すっかり鉄くさくなったこのリビングから外へ出て行った。

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