第3話
十二月になったある日、私は社内塾の先生と会った。会社ではなく、市内のカフェで。
この間塾に遊びに行った時に、「あそこのカフェに入ってみたいから一緒に行ってくれないか」と誘われた。
あの専門知識を、他人に教える事が出来る程理解している先生には興味があった。そして授業以外の発言も。「俺は周りとは違う」的な。何を根拠にそんな思考になったのか。
折角の機会なので色々話を伺った。
先生は、私についての自分分析を語り始めた。
「椎名さんはちょっとマイペースだけれど頭の回転は早いね。けど回転が早すぎて頭の中で情報の整理が追い付いていないんだと思うよ」と言った。
うーん、後半は思いっきりこじつけだね。
先生は幾らか話をしていても、私を誘ったりはしない。フェミニスト発言は時折混ぜるけれども、あくまで『自分から誘う』といった事はしない。恐らく私が仕掛けるのを待っているのだろう。
本社勤務時代、女性関係で痛い目に遭ったと自慢げに話していたのが印象的だ。
「しかし椎名さんは、エロい服を着たとしても下品な印象が無さそうだね」などと褒めているのかそうでないのかよく解らない評価を下した。
そうこうしている内に自分の自慢話が始まった。この先生と話しているといつもこのパターンだ。最初は誰かの分析から始まって、最後には自分の経歴自慢を始める。最初は面白いと思って聞いていたけれど、何度も話している私は、殆どの経歴を聞いてしまった。
先生曰く、この会社に来る前の本社勤務で上司のひがみが物凄かったらしい。上司のお気に入りである女性社員の悩み相談を聞いていたら誤解されて、色々大変だったらしい。
何処までが本当か解らないので、三割位で聞いておく。
つまらない男だ。これなら社内で話しているのと変わらないじゃないの。
先生の飲み物が無くなったら帰ろう。早く飲んでしまえと、心の中で云った。
○
先日の受講どうだった? と菊池さんに聞いてみた。
受講の内容と、先生の自慢話を少し聞いた。
「あの先生、よくまぁあそこまで話大きく出来るよね」と、自然に言葉が出た。
菊池さんとは仕事で接する事が多くなって、性格が良いのが解った。菊池さんと話していると時々、気が緩んでしまう時がある。
菊池さんは性格的に先生に逆らえないだろうから、つい先生の事を話してしまう。怖がる必要は無いよって、伝えているつもり。
先生の話は上司の悪口及び愚痴、自分がどれだけ女絡みで揉めているか、この辺を大げさに話す人だよって。
菊池さんは、私が先生の事を気に入っていると思っているんだろうな。
気に入っているというより、ちょっとだけ刺激が欲しいから遊びに行っているだけ。
人の良くない所を云う女子は、醜く見えるだろう。
けれども菊池さんがこれ以上、先生に怯えませんようにって。そっちの気持ちの方が強かった。なんでだろう。
○
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