第5話 初めて登校したらしい

自転車に乗り、坂道を下っている。


「風が気持ちいよね、早香さん!」

「そっ、そうだね!今日は暑いから。」


自転車に乗ってはいるが、自転車を漕いでいるのは早香さんだ。

そう、俺は前ではなく、後ろに乗っている。


「俺、重くないかな?」

「だ、大丈夫だよ!私、陸上部だし。修史くん全然軽いし!」

「そうかな?ありがと!辛かったら言ってね、変わるから!」

「あ、ありがと。でも本当に余裕だから!」


自転車のスピードがぐんっと上がった。

俺は完全にここでは、いや、もうこの世界と言った方がいいかもしい。

この世界では前の世界の女の子ポジションになってしまったが、まあ仕方がない。


こんな状況になったのは数分前に遡る。




早香さんのお母さんに玄関先で見つられた後、固まっていたお母さんだったか、すぐにハッとして動き出した。

お母さんは髪が長い所意外は早香さんに似ていて、20代くらいに見えた。


早香さんのお母さんは、俺に近付き肩を掴むと怒濤の質問責めや注意をしてきた。


質問は早香さんとの関係とかだったが、状況を説明するとこれから早香を頼るようにとか、早香をよろしくねなどと何回も言われた。

…何故かすごく必死だった。


注意された事は、俺の格好についてだった。

「男の子がそんなに無防備に肌を見たらダメよ!はしたないし、襲われちゃうよ!」と言われた。

どういうことか聞いたところ、Yシャツの胸元開きすぎていること、二腕を捲りすぎ過ぎて二の腕が見えているのが、だめと言われてしまった。


(いや、胸元とか二の腕とか誰も気にしない…よな。…いや、そう言えばこの世界は女性が男性に飢えているんだ。いや、関係あるのかなぁ。)


…もしかしてだが、ここでは男性が肌を見せるのは、女性から見てエッチに見えるのかもしれない。

過剰だとは思うのだが。


しかし、それなら先ほどの電車で俺が「きゃあ!」と言われたのにも説明がつくかもしれない。

俺の胸元全開にしていたのは、前の世界で女の子がブラを着けずにYシャツの胸元を全開にしているようなものなのかもしれない。

確かに、それなら視線を集めるわなぁ。


「早香、修史さんを責任もって学校まで送りなさい。もし、遅刻したら…分かるわね?」

「勿論だよっ!」


服装を直している間、早香さんと早香さんのお母さんとのやり取りがあった。


「いえいえ、僕は大丈…「気を付けてね!修史くん、学校頑張ってね!」


有無を言わさず、自転車の後ろに乗せられ今に至る。

女の子みたいに横座りは嫌なので、またがって自転車にしっかりと掴まる。

…本当は早香さんに掴まりたいけどね。


「ごめんね、お母さんが色々と言って。」


自転車に乗って少しして、早香さんがそんなことを言ってきた。


「嫌々、そんな事ないよ、むしろお礼をしたいくらいだよ。俺こそごめんね、いきなり会ったばかりなのに迷惑かけて!」

「いやいやいや!そんな、全然!むしろ大歓迎だって!」


(ううーっ!男の子が私の後ろに乗ってる…。し、幸せだけど、もっとおしゃれとかしっかりしておけばよかったよー!)


早香さんはとても優しい人のようだ。

朝から見ている感じだと、活発のスポーツ女子でずぼらなところもあるけど、女の子らしい一面を兼ね備えた子に見える。←俺の観察眼はすごい

…現に顔を赤らめて、可愛らしく悶えている。


「…今朝の私とお母さんの会話、聞こえちゃったよね?」


風を感じながら坂道を下っているとき、早香さんがそんな事を言って来たので、思いだし笑いをしてしまった。


「はははっ!ごめんごめん。わざとじゃないから許してよ。」

「や、やっぱり聞こえてたんだ。ううっ~恥ずかしい。」


出会ったばかりだったが、思いの外会話が弾み、学校に着く頃にはかなり仲が深まった気がしていた。

この世界での初めての友達だ!しかも女の子!

とても嬉しかった。


二人乗りは見つかったらまずいので、校門に着く前に自転車から下ろして貰い、二人並んで歩いた。

学校はかなり綺麗で大きく、高校というよりは大学のような規模に思えた。


「あ、案内するね!修史くん!」

「ありがと!早香さん!」


取り敢えず、下駄箱と職員室を教えてもらい早香さんにお礼を言って別れた。

学校に着いた瞬間から、他の女の子たちにガン見されて少し恐縮してしまった。



一 コンコンコンッ ー


「失礼します!転入してきた松本ですが…」

「あ!待ってましたよ、松本君。ここまで来て下さい!」


電話で聞いたのと同じ声がする。

俺を呼んだのは、腰まで伸びた黒髪がきれいで、タレ目で泣きホクロのある胸の大きいセクシーな女性だった。

接しやすい雰囲気出ている人だ。

三組の担任で、佐藤さとう恭子きょうこという先生だ。


「修史くんは気を付けないといけない事が多いので、しっかりと聞いて下さいね!」

「…?わ、分かりました!」


必要な書類の確認だったり、注意事項や大まかな説明など、沢山の情報を短時間で先生は伝えてくれた。

特に女の子に注意してと言われたが…正直よく意味が分からなかった。


ー キーンコーンカーンコーン ー


「あ、チャイムがなりましたね。それでは、いよいよですね、松本君。緊張してもいいからしっかりと自己紹介をお願いね!」

「はい、分かりました。頑張ります!」


先生に付いていき階段を上り、三階にある一年生の教室へと向かう。

階段を登ってすぐにある一組と二組の教室前を通りすぎ、三組の教室の扉の前で待機する。

扉に付いているガラスからチラッと中の様子を見てみる。


「皆さんおはようございます。号令係、挨拶を。」

「起立!礼!」

「「おはようございます!」」


おおー!懐かしい、高校生っぽい。

まあ、今は高校生なんだけどね。

心が大人ではあるが、大勢の前で自己紹介することを考えると緊張する。

まあ、会社でのプレゼンの重圧に比べたら対したことないけど。


「はーい、皆さん聞いて下さい。なんと!今日はいきなりですが、転校生を紹介します。皆さん、仲良く出来ますね。」

「「はいっ!もちろんです!」」

「「ヒューヒュー!」」


意外と騒がしくなって、歓迎ムードだ。

どのタイミングで入るのかな?


「なお、皆さんには内緒にしていましたが、転校生は…男の子です。」

「「……!!?」」

「なので、皆さんは絶っっ対に迷惑はかけないようにしてくださいね。」


(おい!いきなり教室静かになったけど、大丈夫なのか?)


俺が不安になる中、一人の女生徒が発言した。


「またまた先生!嘘でしょ、男の子なんて。そんなおいしい展開、アニメじゃないんだから!」

「「そーだそーだ、私は騙されないぞ!」」

「もー、先生ったらビックリさせないでよー!」


皆、冗談だと思ったらしく、ホッとしたような雰囲気が教室に流れているのが分かる。

そんな中、先生は俺を呼ぶ。


「そうね、見てもらわないと分かりませんよね、松本君入ってく来て下さい。」


おっと、呼ばれた。

俺は深呼吸をして扉をあけてゆっくり歩き、教壇の真ん中にいる先生の隣へ移動する。


「……!!?」


皆、俺を見た瞬間、驚いた顔をしたまま固まっている。

皆、リアクションが面白くてちょっと笑ってしまった。

この世界は男性が少ないから、転校生が男の子である確率が低いから皆信じてなくて、意表を突かれたみたいだ。


男子がいてもいいと思ったが、見渡す限りこのクラスには一人もいないみたいだ。

そして何故かみんな可愛い。

タイプの違う可愛い子が勢揃いだ!


「松本君、自己紹介をお願いね。」

「はい、先生。」


喜びを胸に秘めつつ、黒板に松本修史と名前を書き、自己紹介をする。


「皆さん、初めまして!松本修史と言います。転校してきたばかりで分からないことが沢山あるので、教えていただけると嬉しいです。皆さん、よろしくお願いします!」


一礼して前を向く。


「「「…はっ!よ、よろしくね!!」」」


皆、一瞬止まってはいたが笑顔で迎えてくれたので良かった。


((私が最初にお友達に!他の女子は引っ込んでなさい!))

一 バチバチッ!


…うん?一瞬女の子の間で火花を散らしているのが見えた気がした。


「それじゃあ、席はー。あっ!ごめんね、松本君、机を用意するの忘れていたわ。今持ってくるから、その間に席何処がいいか決めといてね!」


そう言って先生は、教室から出ていった。


ちょっ!待って先生、一人にしないで!

それは、いくら心が大人でもハードル高いってぇ!


…取り敢えず、クラスの皆を困った顔で見渡した。


「私の隣に「いやいや!私の隣に「ぜひ、私の」」」


その表情に気付いたのか、皆、隣へどうぞと誘ってくれたので、嬉しかった。

ちょっと、揉めてるから申し訳ないけど。


でもこうなると逆に座り辛い。

…うーん、どうしよ?


……ん?ああっ!き、君は!


そんな中、後ろの席で突っ伏していた女の子が顔を上げた。

俺はその子と目が会った。

彼女は、今朝、色々とお世話になった早香さんだった。

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