第3話

このままだと幼稚園で小言をもらい、午後は公園でごみ拾い。スリヤは、背後にいるダイゴの様子をうかがいながら、逃げ出すチャンスをうかがっていました。すると、行く手にオートバスがとまっていて、そのあたりに人だかりが出来ていました。

「なんでもいいから、早く出発しなさいよ。ホントに遅刻しちゃうじゃないの」

オートバスに向かって、怒鳴っていたのは、さっきの若い女性です。

「ショリガ、オワッタラ、シュッパツシマス」

オートバスが答えました。そばには、子供用の三輪車とスリヤと同じくらいの背格好の男の子と、ダイゴと同じ型のオートポリスが立っていました。

三輪車は新品でしたが、そのハンドルは少しゆがんでいました。

「どうしてくれるんだよう」

男の子はカン高い声で、オートバスを見上げながら、言いました。スリヤと同じ幼稚園に通う、リッチーです。両親はいくつもの高層ビルを所有している、という大金持ちです。

「バスハ、ブツケテイナイ、イッテイマス」

リッチーのそばにいるオートポリスが言いました。ダイゴは、エチゴと名付けられた、このオートバスが故障がちなのを知っていましたので、急いでエチゴのメモリーヘッドをスキャンしました。

「オートバスノ、メモリエイゾウ、ドウシタンダ?」

ダイゴがエチゴに言いました。エチゴは少しうなだれたように顔をふせて、答えました。

「ワカラナイ。キエテシマッタ。バスニモ、ノコッテイナイ。デモ、バスハ、ブツケテイナイ、イッテマス」

リッチーが、オートバスを小突くようにして言いました。

「うそだ。このバスが、僕の三輪車をこわしたんだ」

「自分でこわしたんだろ」

スリヤが三輪車のハンドルをいじりながら言いました。

「えっ」

びっくりした顔のリッチーがスリヤに気づきました。

「スリヤ・・・」

「自分でこわしたのをバレないように、バスにぶつけたんだ」

「うそだ。こいつのいうことなんか、みんな、うそだ」

若い女性がスリヤに気づきました。

「あ、この子は」

スリヤは、ダイゴにむかって言いました。

「見て。きのうの午後3時過ぎ、コスモス公園のカメラ」

リッチーの顔がみるみる青ざめました。

「ナニナニ、デハ、シラベテミマショウ」

たちまち、ダイゴのおなかにテレビモニターが現れ、コスモス公園の様子がうつりました。

「コスモス公園なんか、知らないよ。僕、行ってない」

リッチーが言いましたが、みんなの視線はモニターに釘づけになっていました。サッカーで遊んでいる数人のこどもたちが映っています。すると、突然、こどもたちの動きがすくんだように止まり、その間を突くようにして、猛スピードの3輪車が現れて、画面の中央にあった、大きな木にぶつかりました。ダイゴが画面をズームインさせると、リッチーの転んでいる様子がはっきりと映っていました。

「僕じゃないよ。だって、ブレーキが・・・」

言いかけたリッチーの口がポカンとしました。いつのまにか、三輪車が消え失せているのです。スリヤの姿も見えません。若い女性が指さしました。

「あそこよ」

車道を3輪車に乗ったスリヤが逃げていくところです。

「うわーん、僕の3輪車」

ダイゴは、すぐにオートポリスネットにヘルプサインを出しながら、言いました。

「サンリンシャナノニ、スピードイハン」

「だって僕のは、電子モーター付きなんだもん」


スリヤは、赤ん坊の頃から、パーヤンやマーヤンのバイクに乗せられていたので、速い乗り物が好きでした。

三輪車なのに、オートバスより早いじゃん・・・ボタンを押しつづけるだけで、大変なスピードが出るのです。

ハンドルをにぎるスリヤは、うきうきしながら、前を走る車やバスを追い抜いて行きました。小さな女の子の乗った三輪車に抜かれたので、車に乗っていた人たちはみんな目を丸くしていました。有頂天のスリヤでしたが、そのうち、サイレンの音が聞こえ出しました。ドライブモードにして、靴底から内蔵車輪を出した何人かのオートポリスが追いかけてきました。いざとなれば、スポーツカーより早く走れるので、たちまち、スリヤの背後に近づいてきます。

「トマリナサイ。キケンデス、スグニトマリナサイ」

交差点にさしかかったスリヤは、急に右に曲がりました。すると、先頭のオートポリスが、右旋回しようとしてバランスを崩して倒れ、あとから来たポリスたちも、それに巻き込まれてしまいました。オートポリスは速く走れても、重心が高いので、急カーブには弱いのです。背後の様子をちらっと見て、スリヤがニヤリとしたのも束の間、目の前には、工事現場の大きな穴が迫っていました。スリヤはブレーキレバーを押えましたが、リッチーが言っていた通り、こわれていました。スリヤは三輪車に乗ったまま、黒くて大きな穴へ、まっさかさまに落ちて行きました。

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