第2話

ハンバーガーを奪われた若い女性は、携帯パッドにスリヤの写真を撮らせ、オートポリスに訴えてやるから、と小言を並べながら、スリヤの通園バッグをつかんでいましたが、オートポリスよりも先に自動運転のオートバスが来たので、仕方なく手を離しました。

口をもぐもぐさせながら、スリヤは若い女性の乗りこんだオートバスをうらやましげに見送りました。一度もオートバスに乗ったことがないスリヤは、そのまま若い女性に連行されてもいいと思っていたくらいです。が、顔認証なので、スリヤは乗ることができません。自動ドアが開かないのです。

スリヤはぶらぶら歩き始めました。おなかも落ち着いたし、幼稚園に急ぐ必要はないからです。見上げれば、素晴らしい秋空。こんな日に、今話題の「驚天動地園」に行けたら、どんなに楽しいことでしょう。ネットテレビでは、軌道エレベーターという乗り物が話題でした。これに乗ると、地上から宇宙空間まで一気に上っていけるのです。でも、乗車料金が高いので、よほどのお金持ちでない限り乗ることは出来ません。マーヤンやパーヤンがマジメに10年働いても足りないでしょう。それに、1週間前から軌道エレベーターは運転を休止していました。エレベーターを支える静止衛星が故障して位置がずれたために、驚天動地園の敷地からズルズルとはみ出して、隣の100階建マンションに衝突し、たくさんの人が死んでしまったからです。はるか上空まで続く、細い竜巻のような銀色のチューブが、ゆっくりとマンションを押し倒していく様子を、スリヤもちょうど、テレビ中継で見ていました。

すごかったわ・・・衝突の光景を思い出しながら歩いていたスリヤは、突然、何かにぶつかりました。見上げると、銀色の帽子に銀色の四角いメガネをした大男がスリヤを見おろしていました。オートポリスです。オートポリスは街中での交通事故や軽犯罪を取り締まるためのロボットですが、誰もが親しみを持てるようにと、大昔に流行った「ゆるキャラ」のように丸いボディに作られていました。「ダイゴ」という名前もあります。第五街区の担当なので、「ダイゴ」となったそうです。スリヤはこのロボットと顔なじみでした。

「ちょっと、どいて」

「サッキ、イハンホウコク、トドキマシタ。マタ、ワルイコトシマシタネ」

「知らない。ハンバーガー、もらっただけ」

「アナタ、ハンバーガーニ、ツバツケマシタ。ショウコ、アリマス」

ダイゴのふっくらした胴体のモニターに、スリヤがつばをはいた瞬間が映っていました。

「ペナルティハ、コウエンノ、ゴミヒロイ、デス」

「やだ」

ダイゴの大きな手がやんわりとスリヤをつかまえました。

「やだ。オシッコ、もれる」

「ワカリマシタ。オシッコ、シテクダサイ」

近くのコンビニで、ダイゴはスリヤをトイレに行かせました。スリヤが、しめた、と思って、トイレの小さな窓から逃げ出すと、そこにダイゴがちゃんと待っていました。

「ワンパターン、ダメデスネ」

スリヤはダイゴにつきそわれて、しぶしぶ幼稚園へ向かうことになりました。

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