アコギな国のスリヤ

@jkdondon

第1話

さて、落書きのつもりで、行き当たりばったりで始めましょうか。

とおい未来のある日の朝です。いつものように、スリヤは幼稚園に通うため、通園バッグを肩にかけて、ひとりでアパートを出ました。おなかがすいていましたが、冷蔵庫に食べ物はありません。若い両親は昨日の夜から帰っていません。また、バイクで暴走し、ゲームセンターで喧嘩でしょう。おばあちゃんのところへ行けば、何か食べさせてくれるのですが、小言を聞くのはウンザリでした。それに、おばあちゃんといっても、まだ40代で元気なので、逃げきる自信がスリヤには、ありませんでした。

それにあの、強烈なお仕置き。

「コラ、スリヤ! また店の売上げをくすねたな。何度言ったらわかるの。ひとの物を盗むのは悪いことなんだよ」

スリヤの手くせの悪いのは親ゆずりだ、と、おばあちゃんは娘のマーヤンを叱っていましたが、あんたに言われたくないね、とマーヤンが言い返すのが常でした。おばあちゃんのやっているお店は暴力バーで、お客の物はなんでも盗んでいると、マーヤンはスリヤに言っていました。マーヤンは、スリヤの母親です。5歳の娘がいるのに、本人はまだ20歳前です。中学生の時、いっしょにグレたパーヤンと家出して、スリヤを産んだのです。でも、アタイはまだ、朝飯前だわ、とスリヤはグウグウなるお腹をおさえながら、バス通りを歩いていきました。お昼には給食が出ますが、それまでとても持ちこたえられそうもありません。こんな時、つい最近までは、人通りの多い場所で大声で泣いていれば、誰かが助けてくれたのですが、今はスリヤの顔を見たとたん、慌てて逃げる人ばかりです。というのも、マーヤンとパーヤンがスリヤを迷子に仕立てて、親切にスリヤをアパートまで連れてきた人を、誘拐罪で訴えると脅して、お金をゆすり取るような出来事が、何度も起きたからです。


もう、歩きたくない・・・スリヤはバス停のベンチに座りました。そこへ、バタバタと足音をさせて、大人の若い女性が来て、息をはずませながら、同じベンチに座りました。最近、引っ越してきたばかりなのか、スリヤを見ても避けようとしません。縫い目のない、3Dワンピースを着ているところを見ると、あまり裕福な身分ではないようです。糸で縫い合わせたドレスというものを、スリヤも一度だけ、おばあちゃんのところで見たことがあります。アタイもあんなドレスの着れるお金持ちのうちに生まれたかった。そうしたら、朝ごはんもいっぱい食べられるのに。スリヤの視線もかまわず、その若い女性は、ショルダーバッグから牛乳パックとハンバーガーを取り出し、ショルダーバッグに言いました。

「・・たく、アホスマね、あんたは。おかげできょうも遅刻だわ」

ショルダーバッグから、手のひらぐらいの四角いものが突き出し、キーキー声で言いました。

「デモ、アシタハ、ヤスミ、イイマシタヨ」

「それは、休みたい、という願望」

近頃の携帯パッドには自立機能があって、口答えもします。

目の前のハンバーガーに、スリヤは思わず、かぶりつこうとしました。でも、若い女性が一瞬早く、気づきました。

「何すんのよ」

「ちょうだい」

スリヤは短く言いました。なんでも、必要なことだけを短く言うのが、スリヤのやり方です。

「ダメ。欲しけりゃ、親に言えば」

「ちょうだい」

若い女性は、スリヤを無視してハンバーガーの包みを開き、牛乳パックをあけました。そのとき、ペッというスリヤの声とともに、たくさんのツバがハンバーガーと牛乳パックにふりそそぎました。若い女性は悲鳴をあげました。

「ひどーい。なに、これ。信じらんない。どうしてくれんのよ」

スリヤの前に突き出されたハンバーガーがどうなったかは、みなさんのご想像のとおり。

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