第17話
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「〈虚妄防疫隔離室〉で抽出されたアストラル体は、有効利用すれば人間の心身の〈拡張〉を促すことができるのよ。そのための〈幻獣〉であり、〈見えない魔物〉が存在する理由なのね。〈多様性〉を阻害する〈声〉を用意することで、そのコンパルソリーな内的抑圧と自身が対話でき、破壊もできる。誰しもが持つ〈過去の呪縛〉を払いのけられた〈生きた呪物〉、すなわち〈魔法少女〉こそが、その〈拡張された心身〉を持つモデルケースとなり、それは人類の進化の礎となるのよ」
酩酊する失血状態のなか、にゃーこ会長がボクに語りかけている。
今、語られたこれが、〈風説迷宮〉の存在する意味なのだろうか。
「まりんちゃんは、負けちゃったね、自分自身に。だから、被検体としては失敗。わたしはまりんちゃんのことが大好きだけど、〈魔法協会〉には逆らえない。逆らえないわたしもまた、負けた魔法少女なのかもね」
暗い牢屋の中は、地下室ということもあって、蒸し暑い。
汗と血液が流れるのは止まらない。
どうやったらここから脱出できるだろう。
「魔法協会が掲げる人類の進化なんてくだらないわ。ねぇアンタ、わたしとまた遊びましょ」
今度は弥生の、あの悪魔のささやきが聞こえる。
ボクは、呟くように、
「いいよ」
と、言った。
あの日のロールプレイと錯覚するかのような、この湿度と温度は真夏の檻の中で。
ボクは嘘つきだ。
だから、ずっと嘘をついていたのかもしれない。
自分の心にすら。
これがトラウマだったとでも?
ボクにはわからない。
でも、最後に一回くらい快楽に浸ってもいい、と判断しただけだ。
なんて、これも嘘かもしれないけれども。
ボクは壁に身体を突きさされたままで、太ももに手をやる。
ホルスターから魔銃を引き抜く。
照準なんて絞らない。
間髪おかずに、ボクはにゃーこ会長の脳天めがけて、魔銃の弾丸を撃った。
スイカを棒で叩き割ったように、にゃーこ会長の頭蓋骨が弾け飛んだ。
壁にボクを刺していた釘が消え、藁人形と化していた身体がもとに戻る。
ボクはその場に倒れこんだ。血だまりにぬめって、滑るようにうつぶせに倒れこむ。
ああ、ボクは嘘つきだ。大嘘つきだ。
会長を、この手で殺めてしまった。躊躇いもなく。
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