第16話

          *****





 県主催の絵画の展覧会の常連。

展覧会に行けば、必ず、描いた絵が展示されている。

女子高生アーティストって肩書は伊達じゃない。


 それが……ありあ先輩。


 瞬間的に意識が飛んで、ありあ先輩のことを思い出した。

 藁人形のように釘で刺されたまま、ボクはエネルギーを吸い取られ続け、出血は止まらず、激痛が走っている。

 ボクは、魔法少女だ。

にゃーこ会長も、ありあ先輩も、大槻弥生も、魔法少女だ。

 各々が自分の過去が生み出した〈見えない魔物〉と戦っている。

 見えない魔物は〈聞こえる〉ことがその特徴だ。

自分の相手になる魔物は、ほかの魔法少女が生み出した〈幻獣〉と違い、〈見えない〉。

見えずに、その〈虚妄空間〉のみがもやもやと具現化する。

〈虚妄空間〉の内部で、魔物の〈声〉は大きく反響し、魔法少女にダメージを与える。

 ありあ先輩は、なにをキャンパスに『描いていた』のであろうか。

 見えないものを見ようとして、その美術スキルを上達させていったのではないか。

 ボクはダメだ。

全く、漫画化できていない。

 一枚の紙の中に『閉じ込め』ることができないでいる。


 あの夏の日、残像の中で弥生は「アンタはネズミに噛まれてすべてを奪われる」と、確かにそう言った。


 そのネズミとはなんだったのか。


 もしかしたら今、ボクは『ネズミ捕り』の中にいるのではないか。

いながらにして、木乃伊取りが木乃伊になるという言葉そのものになったのでは。

 だが、ボクの血をすするのは、この〈虚妄防疫隔離室〉だった。

釘を刺されることがネズミに噛まれることで、魔法少女の血が吸い取られていく。



 想像力の足りないボクは、この現実を殺せない。



 ボク自体がだんだんと〈幻獣〉の元になる〈呪物〉と化していく。

 一度、ボクは〈魔法少女〉として新生することで〈呪物〉というエネルギー体になるのを避けられた。

だが、もうダメだろう、今回は。

 諦念に包まれる。



「まりん。ストーリーっていうのはね、『なにを描くか』じゃなくて『なにを描かないか』なのよ」

 意識の遠くでありあ先輩がボクに創作のアドバイスをくれる。

 いつものように。

 普段の、あの部室内での日常のように。

「でもそれは『描きづらいものを書かない』という意味ではないの。誰だって描きたくない恥部はあるわ。でも、恥部であるという理由で『描かない』のは間違いよ」

 自分の……恥部。

もちろん体の部位のことじゃなくて、精神的な……いや、身体のことを指す場合もあるか……。



 ボクは考えなければならない。

 この現実を殺す方法を。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る