第6話決戦の火蓋と呼ぶにはあっけない
うちの体育祭は1日かけて行われる。午前・午後をまたぐ競技もあればどちらか片方だけという競技もある。私が出場する卓球はまさしく午後からの競技だ。
「あー、果てしなくめんどくさい。」
「まぁ、そーよね。それについては私もどーかーん」
午前の部で行われる大縄とかいう全校競技は跳ぶだけでここまでだるいのか、ということを思わせる。
せーの!と声を合わせ、みんなで跳ぶ。1、2、と声を合わせてみんなで頑張る。あぁ、だるい。吐きそうなほどめんどくさい。何が楽しくてこんなお遊びに付き合わされてるのだろう。
人は1人では生きていけないという。おそらくそれはそうだと思う。しかし生き抜くために誰かよりも上に行くためには自分が頑張るしかないのだ。他人の努力の上を行かなければなりたいものにもなれはしない。
人は1人では生きていけない、ではなく人は1人でも勝ち抜かなければならない、と教えるべきだと思う。
くだらないお遊びが終わり、私たちは昼休憩に入った。少食の極みのような私はカバンから事前に買っておいた6本入りのスティックパンを出した。
「もう、悠羽またそれだけ?今日午後から動くんだよ〜?足りなくない?」
「どうせそこまで動くこともないでしょ。それに食べると動かなくなるし。」
パンにかじりつきながら私は答える。栞は食べている小さな2段弁当をあらかた食べ終わったらしいが私はまだ2本も食べ終わっていない。
「だからそんなにやせてるんだよ~うらやましい~!」
「食べないんじゃなくて食べれないの。じゃあ栞も弁当1段にすればいいじゃん。」
そんなんじゃ死んじゃうよ~、なんてうなっている栞を無視してクラスの子と話している咲奈を見た。そういえばあの子は平均的な体型をしている。程よく筋肉がついていてスポーツをしている人の体格だ。一方私の体は脂肪も筋肉すらついてない。最低限の体をしている。いくら食べても吐いてでも食べたあの日々を思い出しそう。うわ、思い出したら食欲減った。
「はぁ、とっと終わらせて勉強したいなぁ」
ため息を吐きながらパンをしまう。もう2本でいいや。あとはジュースとか飲めばお腹いっぱいになるでしょ。
「悠羽はさぁなんでそんなに勉強したいの?1年のころそんなことなくなかった?」
うちの高校は3年間クラスの人はほとんど変動がないためずっと一緒の確率が高い。栞や咲奈もずっと一緒だ。
確かに、1年のころは勉強もそこそこに卓球に向かっていた記憶がある。あの時はまだ自分を信じれたし、強くなる成長の機があるという自信があった。そしてあの時、あの何気ない言葉で私は崩れて落ちた。自壊した自信を取り戻せるほど私は強くなくてこの地域なら上に行ける強さを持ってるという変なプライドにねじれた。そのおかげでというのは変だが、勉強して良い大学に行くという高校生にしては立派な目標が言い訳になったために勉強に熱心になっている。だから勉強が好きなわけじゃなくて勉強していないと「何か」に責められている気がするだけだ。少なくとも私が私自身に。
「まあ、良い大学入って頭良いカッコいい彼氏とかほしくない?てか終活もゆう理想って聞くしね」
「おお、悠羽からまさかそんな言葉が聞けるなんて!」
お姉さんは感動したよ、なんて泣きマネをしている栞は地元の私立大学に入るらしい。この高校からも数多くの生徒がそこへ流れ、地元のネットワークが広がることを期待しているのだろう。私は絶対に嫌だけど。
「さて、そろそろ準備しますか。」
その言葉に咲奈も気づいて立ち上がってこっちへ来た。
「悠羽。頑張ろうね。」
「ほどほどにね。」
あたかも決勝で会おう、みたいな雰囲気だしてくるけどこれは漫画でもアニメでもないぞ、と黒歴史を作成されたところでもそもそとバッグからラケットケースを出して体育館へ向かった。
体育館に張り出された雑なトーナメント表には2回戦(実質準決勝だったが)で咲奈と当たって決勝まで行けば後輩とやるらしい。
「これ、どっちが勝ってもよくない?」
その言葉はやる気に満ち溢れた咲奈には届かない。
世界で一番退屈な勝ちゲーが始まろうとしていた。
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