第4話モラトリアムは嘘をつかない

 「心理的モラトリアム」という言葉がある。エリクソンが提唱したライフサイクル中の青年期(つまり私たちの世代のことだ。)に登場する言葉だ。

 要は大体のことは自分で決定する大人準備期間になったけれども、今いち責任がなくてなんとなくダラっとした期間、と言ったような感じだ。

 私が言いたいのはこのダラっとした期間を得るためには勉強が必要だということだ。高校時代どれだけ勉強して上位の大学へ行くか、私の楽しいモラトリアムライフがかかっているのだ。それをこのアホは、、、

 「悠羽、今日部活は来ないのか?」

 「悠羽、今日体育卓球だって!一緒に打たない?」

 「悠羽、昨日の試合見た?やっぱ中国強いな~」

 毎日毎日、私の名前を呼んでは不要な会話ばっかり。別に日常会話をする分には別にいい。ただ、卓球部に戻そうという魂胆が丸見えなのがむかつくのだ。

 「はぁ、あのね咲奈。私はどれだけ説得されても卓球部には戻らないし、戻りたくもないの。」

 わざとらしくため息をついて言ってやった。当然だ。というかこの前ボコボコにして捨て台詞までつけてやったのに懲りてないのはなぜなんだろう。

 「良いよ。」

 彼女が一言だけ告げた。

 「何が?」

 

 「悠羽が戻ってくるまで待ってるから」


 こいつは頭をどこかやられてしまったらしい。こいつの成績は中の中ぐらいだがピーターパン・シンドロームにでもやられてるのかもしれない。一度精神科に行ってほしい。頼むから。まじで。


 「私のこと気に掛ける前に部員を心配したら?」

 実はこいつはこんなんでも(?)部長なのだ。確かにこいつ自体は勝つことはむずかしいけれども有力な後輩や高1から始めた子をまとめながらなんとか頑張ってるようだ。なんでも一緒の練習場に通ったりして親睦を深めてるらしい。

 「それを知ってるなら手伝ってほしいところだけど」

 「やだよ。何で手伝わないといけないわけ?」

 苦笑いで言われても私が手伝う理由ないし。ていうか無駄だし。3年間でやれることは限られる。確かな戦術も戦略もなく今から全てを捧げたところで勝てるか分からない奴に挑むのは時間の浪費だろう。

 こいつには何かしらプランがあって動いているのだろうか。おそらくない。こいつはあまりそういう方面も頭が働かない。ちなみに顧問は初心者なのであてにならない。ま、わざわざ言ってアドバイスするほど私も愚かではない。アドバイスして無駄に協力させられては早く帰れなくなってしまうからね。

 

 「そういえば、体育祭何するか決めた?」

 栞が横から突っ込んできた。体育祭、ああそんなものあったっけか。

 「去年と一緒なら大繩かな。全員参加的な奴だけでればいいっしょ。」

 あとは頑張ってくれたまえ、男子諸君。

 「今年はそれプラス1競技らしいよ。」

 「え、マジ?」

 「マジよりのマジ」

 くだらねー!、と思わず叫びそうになったが決まったものは仕方がない。


 「競技って何があるの。疲れないやつがいいな。放課後勉強したいし。」

 「えっとねー、テニス、バスケ、ソフトボール、リレー、棒倒し、、」

 おいおい、なんそれ。めんどいのばっかじゃん。もっと楽なのないの、体育祭って。

 「あとはねー」

 意味深に栞が笑う。



 「卓球があるよ。ちなみに参加者は2人」

 1人は目を輝かせ、1人は絶望した。

 無論、どちらがどちらかは言うまでもないだろうから割愛させていただく。

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