第2話その才能は枯渇しない
「悠羽。帰るなよ?」
放課後、面倒だし帰ろうと思った矢先、先に釘を刺されてしまった。しょうがない、こうなっては咲奈はてこでも譲らないだろう。
「わかった。わかった。7限終わったら行くから。」
そう言い、咲奈を見送った。
熱心だねぇ、なんて栞がからかってくるが代われるものならいつだって代わってあげたいくらいだ。私はもう辞めたのだ。それだけだ。それ以上もそれ以下でもない。
7限が終わり、私は体育館へ向かった。卓球台は体育館の正面ではなく少し広めの物置部屋みたいなとこにある。
「来たか。」と咲奈が出迎え、少し待っててくれ、後半から体育館が使えるんだ。と言いまた練習メニューに戻っていった。私は鞄を下ろし、ぼーっと部員のメニューをこなす姿を見ていた。
「あれ、先輩。何やってんすか?」と不意に声をかけられてふぁっ、とびっくりしてしまった。
くすくすと笑うこの子は私がいた頃に入ってきた子だった。中学からやってたので何度か大会では見たことあったため、高校に入ってきたときは知り合いに会った気分になったのを覚えている。
「咲奈に呼ばれてね。元気?」
「そりゃあもう。今日やるんでしたら久々に打ちません?」
「そうね。久々にやろうかなー。とりあえずラケット貸してくれない?」
一瞬喜んでくれたがラケット貸してと言われた瞬間、同情の目線になった。
だってしょうがなくない?すぐ帰るつもりだったんだから。
練習メニューが後半になり、体育館の半分を使えるらしい。らしい、というのは私がいたころは使えなかったから前半・後半の概念すらよくわからないのだ。とりあえず、体育館のほうに移り、卓球台を準備し練習に移る。後輩に借りたラケットの感触を確かめ、ピン球を弾ませたり回転をかけたりしてみる。うん、なるほどこんな感じね。
一通り、理解できたのであとは実際の感触を確かめるだけだ。
「先輩、打ちましょう!」
「はいはい。よろしくね。」
お願いします、といい軽くフォア打ち、バック打ち、など基本を行った。時々っドライブを混ぜたりしつつ身体を動かしながら自分のコンディションを調べる。まあ、こんなものだろうと、見切りをつけさっさと終わらせようと思い咲奈に声をかけた。
「咲奈、こっちの準備はいいよ。早くやろうよ。」
咲奈はその言葉を聞いて、わかった、と言いこちらに来た。時間も限られてるため3セット2ゲーム先取で行うことになった。まあ、何も変わりはしないけど。
サーブは咲奈から。いつも通り、軽く足を曲げ緩い前傾姿勢をとる。咲奈のサーブモーションはわかりやすいが、絶妙に回転が多い。ぎりぎり2バウンドする下回転がバック側に来たのでつっついて返そうと思ったがネットにかかってしまった。
「やるねー、さすが咲奈。キレ良くなってない?」
「0-1だ。」
相変わらずノリの悪い奴め。まあ、いいか。
今度はフォア前に下回転のショートサービス。キレはさっきので理解したので、返せる。あえて、フォア側の絶好球になる位置へつっついて返すと、バック側にドライブで抜かれてしまった。
「ありゃ、甘かったか。」なんて口では言うけどまあ、想定内だ。返せる半分とみていたのであそこまで綺麗に抜かれるといっそすがすがしい。
サーブは2本交代なので今度は私だ。と言っても、昔のようなフェイク入れながらは難しいので、シンプルに下回転と斜め下でやっていくことを念頭に置いている。最初のサーブは下回転でフォア前に出した。咲奈がバック側にストップで入れてきたので同じようにクロスに今度は長いつっつきを送ってやると、体制が崩れて返せなかった。1-2だ。次は斜め下を思いっきり長く出した。咲奈はバックドライブが未完成のためつっつきで返さざるを得ないが、コースも甘くそのままバック側に帰ってきた球をバックドライブでストレートを抜いた。2-2だ。
私は内心期待していたが、やはりこの程度なのだ。咲奈がここでどれだけ練習したところでどうなるかは目に見えていたのだ。正直この時点でめんどくさくなっていたが負けるのは癪に障るのでこのまま続行することにした。私は時計をちらっと見て時刻を確認する。うん、自分にノルマを課そう。
きっちり15分とはいかなかったけどまあまあだったかな、と思い後輩にありがとう、と言いラケットを返した。
11-5、11-4。これが現実だ。どれだけ練習したところで私程度の才能1つも越えられやしない。
「待って!」
咲奈が後ろから追いかけてきた。
制服に着替えた私はめんどくさそうに聞いてあげた。私、えらい。
「もう終わったでしょ。じゃあね。」
「次は勝てるようにしておくから。またそのときは」
「はあ?もうやらないよ。私、そこまで暇じゃないし。」
もう帰って勉強しなくちゃいけない時間だ。無駄な時間を過ごしすぎた。
「センス1つも越えられない練習に意味あんの?」
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