9-9(ナインオール)
夢見アリス
第1話それができたら苦労はしない
ハッ、ハッ、と自分の息の切れる音がする。キュっキュっとシューズのゴムがこすれる音だけが体育館に響く。防戦一方でらちが明かない。耐えろ、耐えろ、と相手の攻撃を受けるだけで精いっぱいの自分に声をかけなんとかコートに返す。相手のドライブがバック側でバウンドしたときわずかに外側に曲がった。シュートだ、と思ったときには遅く、わずかにラケットに触れ上がってしまった球が相手コートに落ちた。まずい、後ろにさがらなきゃ、そう思い、後ろに下がりロビングを上げる体制を取ろうと前を見たとき真っ白で何も見えなくて、、、
ピピピっと音がする。スマホのアラームを止めると午前7時。どうやら何かしら夢を見ていたようで寝汗をかいてる。顔を洗って歯を磨いて着替えて学校に行く準備をしなくてはならない。朝ごはんは学校で食べる。寝起きにはコーヒー1杯しか入らないのだ。
1時間かけてすべてを終わらし、自転車に乗って学校に向かった。かばんは1つだけでいいのだ。もう終わったことだし。
学校にはチャイム5分前ほどに着く。席に着いたとき嫌な視線を感じたが今さら気に掛ける必要もなく、さっさと1時限の準備をし始める。
「ゆーう。おはよう!」
栞が朝から元気に私に声をかけた。
「おはよう。朝から元気だね。」と返すと、そりゃ部活あとは元気さ、と返ってきた。いや、ふつう逆では?と思ったが案外身体を動かした後のほうが元気だったりするから間違ってはないのか、と思い返した。
「それより、今日の宿題、みせて!」
「ジュース1本ね」
「ケチ!」
なんて、やってると担任が来たので適当に朝礼が始まる。
高校2年になってまでこんなことしなければならないダルさがたまらなく面倒だ。まあ、なんでもいいけど。
「それじゃあ、進路希望用紙配るからな。自分で調べて希望書いとけよ。」
と言い残し、教室を出て行った。
「進路希望かあ。優羽は希望考えてる?」
「まあ、一応。ただ偏差値足りないからどうしよっかなって感じかな。」
ふーん、と興味なさそうに返事をしながら紙を折りたたんで机にしまい込んだ。
「まあ、それよりも宿題の件なんだけど。」
「優羽。」
来たな。面倒な奴が。
「何か用。咲奈。」
「今日は部活来るの?」
「行かないよ。もう辞めたし。」
その言葉に咲奈は顔をゆがませた。
「私は戻ってきてほしい。あなたの練習時間には付き合うし、あの時より強くなったよ。」
前の席に座り私に訴えかける。私にとってはそういうことじゃないんだよな、と思いつつ、考えとくね、と言い席を立った。
咲奈が悪いわけではないことも今なら理解できる。ただ自分に向き合うのが面倒なだけなことも。
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