世界から が消えた。

池田蕉陽

世界から が消えた。


冬が来て、雪が降り注いだ。


春が来て、桜が咲いた。


秋が来て、紅葉が舞い降りた。



なぜだろう、この1年を通して俺は物凄く退屈さを感じていた。


5月の終わり頃、俺は何かを楽しみにしていた。でもその楽しみが心に染み付いたまま、9月を迎え秋が終わろうとしていた。


心に植えついたわくわく感が成就されないまま、幕を閉ざされた気分だった。


他にも何かおかしいな部分があった。


6月頃に俺は何かを探すため、押し入れを漁った。

しかし、途中で気づいた。俺は何を探しているんだろうと。


さらに俺は特に目的を持たないまま、氷を粉のように細かく砕いた時もあったが、親に注意され俺は自分がしている行動に不思議に思った。


このように俺は6月から9月にかけて自分でもわけのわからない行動をする時があった。


そんな1年が経ち、2年目の7月を迎えた。


俺は電車に揺られながら、青い海が左から右へ流れていくのをただただ眺めていた。


「えー次はー○○ー○○ー」


運転手の車両放送が流れ、俺は立ち上がり扉の前に立った。


電車が止まり扉が開かれ、俺は電車を降りた。


改札口で切符を入れて、俺は少し肌寒さを感じたままある場所に向かった。


30分くらい歩くと、目的地に着いた。

歩く度に砂浜が俺の足を奪ってくる。


足を止め、目の前に無限に広がる海を眺めた。

周りからは波の音以外なにも聞こえないので、神秘的な場所にいる感覚に陥る。


俺、なんで海なんか見に来たんだろう。


またこれだ。


自分がした行動に意味が分からなくなる。


「やっぱ海は眺めるのが1番ね」


不意に声がして俺は横を見ると、いつのまにか俺と同じように海を眺める女の人がいた。


彼女もこちらを向くと目が合った。


「ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」


俺はすぐに返答はしなかった。

俺は彼女の顔から目を逸らし、再び広がる海

を見た。


「わからない、多分俺は海を見に来たんだろうけど...なんかそうではない気がするんだ」


自分でも何を言っているのかよく分かっていなかった。


「わからない?海は眺めるため、魚を捕まえるためだけにあるのよ?」


確かに彼女の言う通りだった。海は眺めるもの、魚を捕まえるためでしかない。その他に海の娯楽なんてない。

ないのに...なんでだ...なんでこんなにも...


寂しいだ


「確かにそうだな、でもなんで俺はこんなにも寂しいんだ、なにか、なにかが足りない気がする」


こんなことを彼女に伝えても、変に思われるだけだろうと思っていたが、口に出さずにいられなかった。


「へぇ〜、あなた少し覚えてるのね」


「覚えてる?」


不意に意味のわからないことを言うので俺は少し混乱した。


「夏よ」


僕は何故かその言葉を聞くと、心臓が勢いよく飛び出す感覚に陥った。


「な、夏?」


その言葉を初めて聞いた、初めてのはずなのに、なんでこんなにも懐かしいんだ。


「世界から夏は消えた」


なんだ?この女の人はさっきから何を言って...


「夏って...なんだ?」


「あなたが欲してるものよ」


俺が...欲してるもの?


俺は日々退屈を覚えていた、その原因はその『夏』ってのに関係しているとでも言うのだろうか。


「あなたにそれを取り戻す覚悟はある?」


彼女は俺の瞳の奥まで見据えて、心まで読まれている気がした。


それを取り戻すと世界は変わる...いや元に戻る?

この世界は退屈になった。それを取り戻すためなら俺はなんでも...


「ああ」


俺は力強く頷いた。


「そう」


彼女は俺から視線を逸らし、広い海を眺めた。

俺もそれに従って眺めると、そこには『海』があった。


途端、額から汗が流れ始めた。

温泉に使ったような暑さが込み上げてきた。


俺は驚愕し、横にいる女の人を見ようとした。


しかし、そこには女の人はいなくて代わりにあったのは『夏』だった。


夏が来て、水着のお姉さんが現れた



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世界から が消えた。 池田蕉陽 @haruya5370

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