選択科目

てこ/ひかり

選択科目

「忘れました」

「何だと? もういっぺん言ってみろ」

「忘れました」

「オイオイ……君、レポートはどうした?」

「忘れました」

「じゃあ、何のために家に取りに帰ったんだ?」

「忘れました」


「あのねえ……君、どこのゼミだね? 名前は?」

「忘れました」

「誤魔化そうったってそうはいかないぞ。名前は?」

「忘れました」


「君は一体、何がしたいんだ?」

「忘れました」

「何のために僕の授業を受けている?」

「忘れました」


「......君、いくつだね?」

「忘れました」

「何もかも忘れたで済むと思っているのか?」

「忘れました」


「じゃあ、君のその体は......」

「忘れました」

「その声は......」

「忘れました」


「......僕は今、誰と喋っている?」

「忘れました」

「ここはどこだ?」

「忘れました」

「僕は誰だ!?」

「忘れました」

「......ここがどこかも分からない。自分が何者かも分からない。君が自分で選んだんだろ?」

「忘れました」


「何のために明日を目指す?」

「忘れました」

「教えてくれよ......一体何だったら思い出せるんだ?」

「忘れました」

「君は何のためにここに来たんだ!?」

「忘れました」

「ふざけるな! 大人をからかって、何が楽しいんだ!?」

「忘れました」


「......すまない。大きな声を出してしまった。そうだ......そう、僕も忘れていた。僕は一体何のために、ここに来たんだろう......」

「忘れました」

「......あの頃は、今の新入生みたいに、馬鹿みたいに大きな夢を描いていたっけな?」

「忘れました」


「何が目的だったのか、何が楽しかったのか。それすらも......」

「忘れました」

「また思い出せるかな......あの頃みたいに、がむしゃらになって走り出せば......」

「............」

「だってそうだろ? もう後悔したくないもんな? 不安や焦りなんて、そんなもの......」

「忘れました」


「ありがとう。そうだよな、僕だって、忘れ物がたくさんあったんだ。君と話せて良かった。おかげで明日もまた一歩、歩き出せそうだよ」


「ところで君、レポートは?」

「忘れました」

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選択科目 てこ/ひかり @light317

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