第2部 夢追い人。嵐山蘭子!
第0話
私には叶えたい夢がある。
それは両親には反対されたし、私自身も無謀な賭けに近いモノだと思っている。
しかしどんなに考えても、私がやりたいことはコレしか見つからなかったし、本気で打ち込める唯一のモノでもあった。
それが今、やっと叶いそうな一歩手前のところまできている。
あの日伸ばした右手は、確実に何かを掴もうとしていた。
これでやっと胸を張って彼の元に帰れる――――そう思っていたんだけど……
「あぁ…………ホントに疲れた…………やっと帰ってきた…………」
自宅の賃貸アパートへ帰ってきた私は、重たいスーツケースと背負ったギターを玄関へ置く。
歩き疲れてパンパンになった足を引きずりながら、やっとの思いでリビングへ倒れ込んだ。
「くっそ~~……これも全部、梅田ダンジョンのせいだ……」
その複雑な構造から『梅田ダンジョン』との悪名高い大阪の梅田地下街。大阪に在住しながらも、そこに足を踏み入れたことは今まで一度もなかった。割と多忙な身ともあって、その機会に恵まれなかったというのが正しい。
そして今回、色々な報告も兼ねて四年振りに東京へ里帰りをしようと思った私は、帰郷の途中、興味本位で梅田駅にて下車をした。
ホントにちょっとのつもりだった。ちょっと入ってすぐ出てくるつもりだった。でも、予想以上に出て来れなくなった。
ダンジョンの異名はダテじゃねえ! 迷子っていうか遭難って感じだったもん!
朝九時に家を出発して、新大阪駅に到着したのが午後の四時。そこから新幹線に乗って、東京駅に着いたのは夜の七時過ぎ。それでも、私の不幸はここで終わらなかった。
なんでこのタイミングで思いついちゃったか分からないんだけど、なんか大事なものを忘れた気がした。気になって仕方がなかったので、新幹線ホームでゴソゴソ持ち物を確認する。
ない…………今回の帰郷の目的の一つでもあるチケットがどこにもないのだ。というか、どんなに記憶を辿っても、スーツケースに仕舞った記憶は引き出せない。
「ていうか絶対テーブルの上に置きっぱなしだよ!!」
慌てた私は、そのまま新大阪行きの切符を購入してトンボ帰り。
折り返しの新幹線の中、新横浜を過ぎた辺りで思ったんだけどさ……
べつに今日、取りに帰る必要は無かったんじゃね?
散々歩きまわって体力は既に底を尽きそうな状態だから、今日のところはとりあえず実家に帰れば良かったじゃん!
それに忘れたチケットだって、合い鍵を持っているメンバーに連絡して郵送してもらうっていう手段だって取れた。
でも新大阪までの切符を買って乗ってしまった手前、その考えの諸々は諦めるしかない。まあ、私がこうやってやらかしちゃうのはいつもの事だし、しょうがないかなってくらいには思える。私は結構やらかし系女子なんだよね。
でもやっぱりもうダメ…………
時刻はもう、日が変わる目前に迫っている。体力が尽きるを通り越して、マイナス限界突破していた。私は這いつくばりながら、やっとの思いでリビングのテーブルへ近づく。そして、テーブルの上に置いてある紙キレに手を伸ばした。
「やっぱりあった………………コレ忘れるとかホントあり得ないよね~~……」
仰向けになって、二枚のチケットを天井にかざす。
そして――彼の顔を思い出していた。
もう四年も会っていない。それどころか連絡すらも取っていない。
久しぶりに会って、驚いた顔をするのかな?
連絡の一つもしないで、と怒られたりするのかな?
残念だけど、嬉しくて飛び跳ねる姿は想像できなかった。
やはり、四年という時間はとても重い――――
私の気持ちは変わらないけれど、彼は今――私の事をどう思っているのだろうか――
もしかしたら、忘れられているかもしれないよね。それはそれでしょうがない。
だって、あの時の私は、彼よりも優先したいことが他にあった。伸ばした右手で、何かを掴み取りたかった。
ずっとずっと、結果を出すまで彼に会うわけにはいかないと思っていた。
それももう終わり――――
ここらへんでちゃんと、一度手放したものを取り戻しにいこう――――
そんなことを考えながら彼の顔を思い浮かべると、どうしても頬が緩む。
私は再び、かざしたチケットをゆっくり見つめた。
「――――…………えええええええ!!!!???」
驚愕の事実に、思わず大声を上げる。
なんていうかもう、色々ビックリ!!
チケットの示す公演日は二月の末。今はまだ、一月の半ば過ぎだ。
つまり私は、公演日を丸々一カ月勘違いしていた、ということなんです。
今の今まで勘違いし続けていた私も私だけど、そう思うと今日一日の苦労って一体…………
あまりにも衝撃的な事実に、寝がえりをうって床に突っ伏す。ひんやりとした床の冷たさを感じながら、全身虚脱感に襲われていた。
「ああ~~……もうーーホントなんなのコレ~~~…………」
今日一日に浪費した体力と交通費のことを思うと、やるせない気持ちになる。
でもそれ以上に――彼に会う期間が延びてしまったことの方が、精神的にくるものがあった。
「はぁ…………早くタカ君に会いたいな――――」
そう呟いた後、私の意識はどんどん遠ざかっていった。
そしてそのまま眠りに落ちる―――――――
その眠りの中で、再会を待ちわびた私は、彼の――橘貴大の夢を見た――――
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