第4節
翌日、彼女のお通夜に参列した。参列者はほとんど彼女の身内ばかりで、血のつながりが無く、単純に友人という立場なのは私だけのようだった。
朋花の顔は綺麗だった。
彼女の母親のおばさんはかなり憔悴しているようで、私を見つけて声を掛けるなり泣き崩れてしまった。私はおばさんにかけるべき言葉を持っておらず、ただひたすらに背中を擦ってあげるしかなかった。
通夜振る舞いの後、帰ろうとしているとおばさんに呼び出された。
「さっきはごめんなさい。まーちゃんの顔見たらなんだか力抜けちゃって」
「いえ、そんな、無理もないですよ……」
私が言えることは本当に無かった。何を言っても何にもならない。
「朋花と仲良くしてくれてたのってまーちゃんしかいなかったから。本当にありがとうね」
目を真っ赤に腫らし、たっぷり涙をためながら話すおばさんは、私が知るよりも少し老けていた。
「朋花の様子は本当に普通だったの。朝ごはんを食べにリビングに出てきて、普通に私と会話したのよ。それからまた部屋に戻って、少ししてから呼びに入ってみるともう首を吊っていて……」
おばさんは何とか食い止めていた感情を制御できなくなり、また大粒の涙をぼろぼろこぼし始めた。私や周りにいた人たちは落ち着かせようとすると、おばさんは大丈夫というように手を小さく上げ私を見た。
「朋花はね、私たちに遺書とかは残さなかったけど、まーちゃんには残したみたい」
そう言うとおばさんはポケットから封筒を取り出した。
「昨日は気付かなかったんだけどね、今日の朝改めて朋花の部屋に入るとこれが」
封筒は何の柄も無い真っ白なもので、小さく端っこに朋花の字で私の名前が書いてあった。
「受け取ってあげて。朋花が遺した唯一の手紙だから」
家に帰る道のりはどこかフワフワしたものだった。無意識のうちに煙草を買い、家に帰っていた。
おばさんはあの後に親族の人に支えられて帰宅した。彼女の父親はかなり前に病気が原因でオアシスへの意識摘出を受けたはずだった。それ以来、母娘二人で生きてきたのだから無理もない。そしてそれが、彼女がオアシスを嫌う理由の一つだった。
家に着いてからまたベランダに出ている。蒸し暑い夏の夜だ。
朋花は首を吊った。確か彼女は苦痛は無いと言っていたが、実際はどうなんだろうか。
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