第2節

 達樹が高校に行くようになって半年経った。達樹は高校に入ってから部屋にこもると何日も出てこず、外に出るとこちらも何日も帰ってこないことが増えていき、本格的に絵を描くことに没入していった。高校は出席などないみたいなのでその点は気にしなかったが、何日も帰らないことについては何度か達樹を窘めた。叱りつけなかったのは美玖が反対したからだった。達樹が夜遊びをしていないのは明白だったのもあった。

 窘めるたびに達樹は不服そうな顔を見せ、見かけだけ俺の言い分を理解する素振りを見せた。当然、達樹は俺を露骨に避け始めた。

 達樹の作品も展示される学校の展示会のことを、美玖にだけ達樹はこっそり教えていた。さらに、俺に伝えるなとも言ったという。流石に美玖は教えてくれたが、俺に伝えるときの態度が教えたくないとはっきり言っていた。結局、展示会には行かなかった。

 そんなギクシャクとした空気が流れてから数年経ち、達樹は大学進学を控えていた。志望校は当然ながら美大だった。それも国内最高峰の。高校の成績ならば、何の問題も無く入学できるだろうとのことだった。美玖はそれをとても喜んでいたが、やはり俺は手放しで喜べなかった。

 そんな態度はやはり達樹に伝わった。俺が自分の部屋にいると、珍しく達樹が入って来た。だが、入って来た時の達樹の眼は俺を見下すような冷たい眼だった。

「なんで父さんは俺の夢に反対するんだよ。絵を描くことがそんなに問題か?」

 来て早々、冷たい声で問う達樹に俺は答えられなかった。ただ一言、甘くないぞ、と言ってしまった。この言葉を聞いた途端、達樹は俺の部屋を飛び出していった。

 今回ばかりは俺が悪いと思った。質問に答えられないなら何も言わないでいればいいのに、一言余計だった。この言葉の意味を達樹は、俺が応援しているとは受け取らないだろう。

 この後達樹の部屋に行ってみたが、何度呼び掛けても返事は無かった。

 この件があってから達樹は俺と話さないばかりか、家の中で会わないようになり始めた。できるだけ外出し、家にいるときは部屋から出ない。何かしらの用で出なければいけない時は、徹底的に俺を警戒して部屋を出たらしい。その努力のせいで、俺たちはほとんど会わなくなった。この話も美玖から聞かされたものだ。

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