ある父親の思い
第1節
「結婚」をする人間は昔と比べて減ったそうだが、俺の地方では当たり前に結婚をした。もちろん、俺も例外ではない。結婚をしたのは25歳の時だ。相手は俺と同い年で、隣町に住んでいた。面識は多少あったが、半分お見合いのような形で結婚をさせられた。
結婚はしないものという認識が生まれたのはいつからだろうか。聞くところによるとオアシスができてからだそうだが、実際にはAIが進化して人間が働く必要が無くなってかららしい。オアシスも一因ではあるが。
結婚をしてからも俺たちの生活は変わらなかった。俺も一応仕事はしていたし、妻の
だが、そんな生活が大きく変わった。息子ができた。名前は
子どもができると不思議なことに私たちの会話も増えた。もともと相性は良かったのだと思う。美玖がどう思ったかはともかく、子育て自体は積極的に関わったつもりだし、達樹もそこまで手がかかるような子ではなかったので、妻と息子、仲睦まじく暮らせていた。
達樹が中学を卒業する年、達樹にこれからどうしたいか訊ねてみた。高校に進みたいならどんな高校か、何かしたいことがあるならと思って訊いた。達樹は画家になりたいと言った。そして、そのために美術系の高校、大学に進みたいとも。
その時の俺は、表面的には賛成したが、正直反対だった。理由はそれが遊び半分ではなく、真剣だったからだ。今のご時世、働かなくても生きていけるし、好きなことをしたって何の問題も無い。ただ、達樹は趣味や道楽としての画家ではなく、その道を究めたいと言った。
芸術という価値はここ数十年で大きく下がった。必要性が無くなったからだ。神も悪魔も生きる意味も無くなったからだ。代わりに道楽で出てきた暇人が顔を利かせだした。ルネサンスなんかも金持ちの道楽だったが重みが全く違った。そんなところに本気の覚悟で息子が飛び込もうとしている。結果は目に見えている。理解されず、埋もれるだけだ。ロクな思いをしないならしない方が良い。これが俺の考えだった。もちろん、達樹の人生だ。俺がとやかく言うべきではないが、他人ではなく息子だ。美玖と相談して達樹の望み通りのことをさせることになったが、あまり気は進まなかった。
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