手記2

 いい歳して自己嫌悪という思春期の子供みたいなことになってしまったが、それでも僕の考えはどんどん飲み込まれていった。

 こうなってしまうと僕の中に選択肢が下りて来る。オアシスを完全に受け入れ、自分の甘さを認めるか。それとも、完全にオアシスを否定するか。

 弱い僕はオアシスの否定に動いてしまった。毎日使っていたオアシスのアカウントを消したりして、オアシスで得たすべての繋がりを無くそうとした。僕一人がオアシス上からいなくなったとしても、誰も何も言わない。せいぜい、他の人間とつるんでいるとしか思われない。

 オアシスから僕が消えてしばらくすると、どうしようもない孤独が僕を襲った。周りに僕と話してくれる人はいる。学生の頃からの親友もいるし、職場での同僚もいる。労働時間は3時間程度だが、よく話してくれると思う。飲みに行ったのことも何回かある。それでも僕は孤独に感じた。オアシスができる何十年も前には「ネット依存」という言葉があり、今は「オアシス依存」という言葉がある。内容はほとんど同じだと聞いているが、つまるところ僕は、いい意味でも悪い意味でもオアシスに依存しているのだろう。

 それに気づいた僕はオアシスを完全に破壊することに決めた。

 オアシスの中枢はどこにあるかわからないし、どんな風に攻撃すれば破壊できるのかもわからなかった。スーパーコンピューターみたいなもの、というのが一般人の共通認識だった。それでも僕は壊すことに決めたのだから何も思わなかった。必死に集められるだけの情報を集めても情報は集まらなかったが、それならばそのシステムを管理している親玉を攻撃すればいいのではないかと思いついた。それが先日のことだった。

 システムを管理しているのは日本国なのだから、僕がしようとしたことの重要性はわかっているつもりだった。その行為が成功した時の社会的な意味や影響も。

 結果的には僕の計画は成功しなかった。これは推察だが、オアシスの破壊を計画しようとして反オアシス団体に接触したのが間違いの始まりだったんだと思う。その時に公安とかそんな連中に目を付けられてしまったんだと思う。

 僕の計画が失敗して、逮捕されたことは実はよかったんじゃないかと思っている。僕は両親の亡霊を追いかけ続けていただけなのだから。オアシスに人生を狂わされたわけではなく、僕の両親に振り回されただけだった。でも、僕はそんな両親すら受け入れ、優しく、幸せにしているというオアシスを徹底的に壊したいという願望は無くなっていない。僕はきっとまたオアシスを壊そうと必死になってしまうだろう。

 きっと、死ぬまで。

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