あるテロリストの思い

手記1

 オアシスの中枢を爆破する。こんな簡単なことが誰にもできない。オアシスの中枢はどこにあるのか、そもそもそんなものがあるのかという問題もあるが、何よりも国民全員がオアシスに溺れている中でそんなことが出来る訳が無かった。僕を除いて。

 転機は両親がオアシスに意識を移したいと言い出したことだった。もともと病弱な母と、母を看病する父。どちらも日に日にやつれていき、僕が高校を卒業するとそう言いだした。オアシスに対してどちらも激しく嫌っていたのが嘘みたいだった。

 一時期日本中が荒れていたことを思えば、かなり生活しやすいと勝手に思っていたが、両親はそうではなかったらしい。とにかくもう疲れたと言い出した。そして勝手にオアシスに消えて行った。

 僕は両親のために勉強をしていた。大学に行かなかったのは、少しでも働いて楽な生活をさせるべきだと思ったからだ。政府から支給されるお金では心もとなかったのだ。にも関わらず勝手に消えていき、残された俺は楽になったかと言えばそうではなかった。オアシスをあれだけ嫌っていたにも関わらず、いざ疲れるとさっさとオアシスに逃げた。そんな臆病者たちのために高校まで勉強し、大学を諦めたと思うと怒りしか出てこなかった。そしてもう復讐することすらできない。これが僕の動機だ。

 それからの僕はオアシスに対してどう攻撃をして、どう両親に復讐してやろうか考えていた。もちろんいくら調べてもオアシスの中枢がどこで、どんな風にオアシスを攻撃して、両親に復讐できるかなんてわからなかった。それでも僕は復讐をしたいと心の底から願った。誰にも理解されなかったが。

 そんな思いを抱えて何年か経ち、僕もオアシスへの嫌悪は次第に薄れてきていた。やはりオアシスのコミュニティに入らずに生活をするのは難しいし、オアシスを嫌悪する奴は珍しい。復讐したくても今の生活を維持する必要はあった。

 しかし、それとは対照的に自分への怒りがとめどなく膨らんでいた。

 あれだけ嫌っていたオアシスに対して簡単に迎合してしまう自分の怒りは、本当は大したことが無いのではないか。オアシスのコミュニティで会話をして、政府の公的サービスをオアシスで当たり前に享受し、都合が悪くなればオアシスを敵視する。オアシスを使って自分の弱さを誤魔化しているだけではないのか。そんな考えが僕を支配していった。

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