第6節

 彼女が私に言った言葉は力強く、温かいものだった。彼女がいなければ私はオアシスへ行くことも、自殺することも思い付かず、思い付いたとしてもできなかっただろう。

 ただ、彼女への疑問があったことも事実だった。

 どうして私とオアシスへ行ってくれるのだろう。

 彼女はオアシスを肯定しているようで、否定もしていた。飼い慣らされる、すべては自分のものじゃない、と。この疑問を彼女に訊いても笑顔しか返ってこなかった。でも、あの時の私に幸福をもたらしてくれるのは彼女だけで、その笑顔だけで十分だった。

「オアシスへ意識を摘出するのは簡単なんだよ。お金もかかるけど、そこまで高額じゃない。申請が通ればいつでもオアシスへ行ける。唯一の問題は、未成年者が意識摘出するには親の認証が必要になる」

「ごまかせないかな」

「無理だと思う。認証はオアシスのアカウントからすることになってる。オアシスは私たちの授業用の端末みたいな暗証番号なんかじゃなくて、生体認証が基本だから、そこをこっそり突破できないし、認証が必要な項目は何十項目もある」

 彼女は淡々と答えた。すでに検討したのだろうと思った。

「要は生体認証が問題なんだよ。そしてそれをクリアするなら方法は1つだけ。親に許可させればいい」

「でも、そんなの認めるかな。お願いしたところで無視されるだけだと思うよ」

 彼女は私の言葉にかぶりを振った。

「そんなの私も一緒だよ。話を聞いてすらもらえない」

 彼女は静かに言った。彼女の家庭環境を私は知らないけれど、私の家のことに触れないようにする彼女を見ていると、何となく想像できた。

「私の考えた方法を乗るかは美月に任せる。でも、オアシスに行くためにはこの方法しか思いつかない」

 彼女の表情は少し暗かった。少し間を置いてから口を開く。

「死ぬ寸前まで行く。そうすればオアシスへの意識摘出をすぐにしてもらえる。病院に運ばれさえすれば、生命機能が止まりそうな場合オアシスへ行ける。これには親の認証が強制的に取られる」

「そのやり方だと死んじゃう可能性もあるでしょ?」

「そう。だから美月に選んで欲しい。こんな危険な賭けに乗ってくれるかどうか」

 そう言うと、彼女は鞄から小さなケースを取り出した。

「これは睡眠薬。中にある分を全部飲んだら致死量より少し足りないくらい」

 彼女は私の胸にそのケースを押し当てた。彼女の瞳には薄い膜が光っていた。彼女のそんなところを見るのは初めてだったし、とてもきれいだと思った。

 私は笑って頷く。すると彼女は私の胸に顔を押し付けた。泣いていることがばれないようにするみたいに。

「必ず成功させよう。美月は特別。私の親友だから」

 その時の彼女は肩を震わせていて、なんだかいつもと雰囲気が違ったけれど、そのあとに見せた笑顔はやっぱり完璧で、私は彼女を思い切り抱きしめた。

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