第4節

彼女に出会って、季節が廻った春。人数がそもそも少ないからクラス替えなんてものは無くて、彼女とは同じクラスのままだった。

 入学してからこのクラスは比較的平和だった。クラスのお調子者がお昼ごはんを食べようとして薬品が入っていたという、命に係わる悪戯があったがそれきりだった。犯人はわからなかったし、薬品を盛られた男子は嘔吐したが後遺症などは無く、警察も入ってこなかったせいでうやむやになった。でも、それ以外は喧嘩すら起きないほどのクラスだった。

 でも、学年が進んで一気にみんなが変わり出した。誰々の端末データが誰々の不正アクセスで抜き取られたという話や、単純にいじめのような話まで一気に噴き出した。私も誰かに濡れ衣を着せられそうになった。

 当然にクラスの雰囲気は悪くなり、誰も信じられない状況に陥った。でも、彼女との関係は特別で、あの素晴らしい教室の時間も続いた。

「最近クラスの雰囲気が一気に悪くなったよね。あからさまに敵意を見せてる奴もいるし、笑ってても陰で徹底的に悪く言ったり。仲良くなくても良いけど、ギスギスするのはしんどいよね」

「人ってそういう根本的なところが変わらないよね。とにかく平穏を求める」

「そりゃそうでしょ。生き物だもん。まして陽菜が前に言っていたように、人は独りでは生きていけないんだからなおさらだよ」

 私の言葉を聞いて、また彼女は完璧な笑顔を見せた。

「ふふ、その通りだよ美月。みんなそう。クラスのみんなや先生、この国の人たちみんなそう」

 彼女の顔がふっと真顔になった。

「ねえ、これってこの社会の形そのものじゃない?みんな他人を信用してないんだよ。この社会でみんなが信用しているのはオアシスだけ。オアシスだけはどんな自分でも受け入れてくれると思ってる」

 彼女は椅子から立ち上がって窓際に立った。

「このクラスの絶対的な安定って何かな。結局オアシスかな。オアシスだとすれば、コミュニティじゃ安心できない子がオアシスに逃げるのかな」

「このクラスから摘出を受ける子が出るかもしれないってこと?」

 彼女は頷いた。

「オアシスに身を任せるってどんな気分なんだろうね。現実の世界の人がオアシスを壊したらどうなるんだろうね。身を任せている人の分が軽くなるのかな。それとも何か別のタマシイが現れるのかな」

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