第3節
彼女と私が夜の学校で話していたこと。取るに足らない話から、人間について大真面目に話したりもした。私の理解が及ばないほど、彼女は賢く野生的な感性だった。そして彼女の興味は人に対してのみだった。
私が一番理解できなかった話はやはり魂の話だ。
「昔の都市伝説に、人が死ぬと死ぬ前と比べて21グラム体重が軽くなるって話があるの。だから、その21グラムは魂の重さとも言われていたの」
「魂の重さ?」
「そう。でもこれって、200年近く前の実験が基になっているの。その実験では犬も同じように体重を量ったのだけれど、犬では体重の変化が無かった。だから犬には魂が無いって言われたのよ。最終的には、この実験のデータそのものに信ぴょう性が無いってことで否定されてる。軽くなったのは事実らしいけど、それは単純に誤差か、そうでなければ水分が抜けただけって言われてる。もう昔のこと過ぎて誰にもわからないけどね」
彼女はいつも通りの口調で言う。
「なんだ、魂とか久しぶりに聞いたからちょっと期待したのに」
「そう?私はこの話を思い出すとワクワクする。特に犬には魂が無いって話なんかすごいと思うの」
「どうして?」
「この実験では、人間6人と犬15匹が観察の対象だったの。そして犬の数が多いのに、人間だけが軽くなって魂の存在が認められた。これって、人間のすべてを映していると思わない?」
彼女が喜々としているのと対照的に、私は全く理解できなかった。犬が人間よりも多かったにも関わらず魂を認められなかった。ここには確かに人間のエゴが存在するはずだ。でも、それだけの話だと思った。彼女によると、それを否定する人が出てきたこと、科学によってこの実験は信ぴょう性が無いとされたことまでもが人間的であって、素晴らしいみたいだけれど。
「……よくわかんない。そんなの昔だから当たり前じゃん」
昔。200年なんて遥か昔だ。私の親だって生まれてないし、その親であるおじいちゃんたちだって生まれてない。そんな昔の、蔑視する訳では無いけれど、今と比べると圧倒的に遅れてる人たちの考えてることなんてそんなもんだ。
「ふふ、これって今もそうだと思わない?」
彼女はいつもの通りの素晴らしい笑顔を見せた。でも、私にはその笑顔が初めて歪んだものに見えた。
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