ある少女の思い

第1節

 私は彼女と高校で出会った。そのことはどこでも起こっているありふれたことだ。でも、彼女はやっぱり特別に見えた。

 特に将来したいことも無く高校に入った。「仕事」という概念はAIの発達で無くなって、必要最低限の生活は保障される。何のために学校に行ってるのか分からなくなった。今まで「仕事」とされたものは道楽か、生活をより豊かにするための刺激や小遣い稼ぎ、暇つぶし程度のものになって、全力で働く人なんて一部の酔狂な人に限られていた。それに加えてオアシスなんかが出てくれば、生きている意味みたいなものすらいらなくなった。そんなものを探す必要も無い。昔流行っていたという自分探しの旅なんて誰もしない。私たちの存在価値なんて地球上どこを探しても無いのだから。

 それならなぜ高校に入ったのかと言われれば、周りに流されただけだ。進学する必要はないけれど、他にすることが思いつかない。それならば一応進学しておけという周りの言うことに従ったに過ぎない。

 そんな考えの私が変わったのは彼女がいたからだ。ありきたりだけれど、彼女は他の人と確実に違っていた。普段は大人しく授業を受け、誰かと諍い事を起こすことなく過ごして、それでいて誰にも見せることは無い確固たる意志があった。本来であれば、私もそれを見ることは出来なかったはずなのだけれど。

 彼女との出会いは単純だった。高校に入って最初の行事である入学式を済ませ、教室で周りの人間を値踏みしながら過ごしていると、彼女は穏やかな表情で私に話しかけてきた。何と言って挨拶したのか全く覚えていないが、彼女の笑顔は忘れられないほどのものだった。私はそれを見たいがために彼女と過ごしていった。

「どうして美月みつきは高校へ入ったの?しかも今どき珍しい集団授業の学校に」

 ある日、彼女は私にこんな質問をした。

「どうしてって、大した理由は無いよ。何かしたい訳でも無いし、ただ何となくかな。そういう陽菜ひなはどうして高校に?」

「私は人を見てみたいと思って」

 彼女は真剣な表情で私に言った。

「どういうこと?」

「今の世の中で人って不思議なものだと思わない?人っていったい何だろうって議論は昔からあって、それの答えが出ないうちから人の意識だけを取り出す技術が出来た。それって、自分たちが取り扱っているものすら何かわかっていないことでしょ」

「陽菜はそれを知るために高校に入ったの?」

 彼女は頷いた。

「じゃあ、将来はオアシスの技術者になりたいとか?」

「ううん。そんなこと思ったことないよ。ただ、私は人を知りたいだけ。生身の人を観察したいの」

 そう言って彼女はまたあの忘れられない笑顔を見せた。彼女の言ってることはわかったような、わからなかったような不思議な感覚だったけれど、彼女のその笑顔を見ると私はどうでもよくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る