005  ワンダーランドⅤ

「なっ……⁉ 今、お前何をしやがった⁉」

「何もしてねぇーよ。ただ、この木刀で一振りしただけさ。それにこんなちっぽけな武器にやられるようじゃ、お前ら弱すぎじゃねぇーか‼」

「野郎! いい気になりやがって!」

 パンチパーマのリーダーが剣を抜いてハヤトに襲いかかってくる。ハヤトはそれを見ながら、左手で掴んでいた仲間をリーダーに向かって投げる。そして、そのままハヤトはパンチパーマの視界から姿を消す。彼には相手の動きがスローモーションのように見えた。

 レベル差がありすぎるせいか、完全にハヤトの方が有利に立っている。木刀を振り回して、男と一緒にパンチパーマを吹き飛ばす。二人は仰向けに倒れた。

「ぐはっ……‼」

 二人は倒れた後、気絶していた。

「オメーら、大丈夫か?」

「あ、うん。こっちは大丈夫だけど……」

「ああ、まあ、その腕のかすり傷だったら救急箱で応急処置でもしておけば大丈夫だろう」

「く、くっ……」

 負傷している少年を見ながら、少女は言った。

「助けてくれてありがとう。私は園田咲夜そのださくや。こっちの負傷している奴は、加藤平次かとうへいじね」

「あ、どうも……」

 負傷している少年は軽く頭を下げる。


 だが、ハヤトは疑問に思った。この世界はアカウント名は自分が作ったキャラ名になっているはずなのだ。ここで本名を言うのはおかしい。

「なぁ、お前らなんで本命で語っているんだ? キャラ名というのがあるだろう?」

「だって、アカウント名じゃなくて現実世界の本当の名になっているのを知らないのか? 私は、こっちに閉じ込められて初めて知ったね……」

「マジか‼ あ! 本当だ……」

 ハヤトは《メインメニュー・ウインド》のキャラ名を見ると、現実世界の名前がそのままいつの間にか刻まれていた。

「ね、言ったとおりね。だから、お前の名前はキャラ名で名乗ったとしてもこっちでは本名がバレているね」

 と、自信満々に言う咲夜。だから、ハヤトではなく斎藤速人さいとうはやととなっていた。

 あの後、速人は悩みながら、自分の住んでいる家の一階にあるヨシコの家に連れて行った。さすがに負傷した人間、襲われていた人間を見捨てるわけにはいかなかった。ヨシコは本命も小野良子であり、連れてきたときには、平次の腕の怪我を手当てした。

 速人は、良子から酒をもらい、コップに少量注ぎながら飲む。咲夜は、お構いなしに店の料理を腹いっぱいになるまで食べつくした。

「私たち、あいつらのところで働いていたね。毎日、毎日喧嘩や強盗、いろんなことをさせられたばい。それは毎日恐怖の様で嫌だったね。この世界に閉じ込められてからはもう、死にたかった……」

「僕はやめようといったんですよ。だけど、咲夜ちゃんが金や飯欲しさにどんどん仕事を入れてくるからこうなったんだよ」

 咲夜を平次が非難するように睨む。物事考えなしになんでも突っ込んでいく咲夜に考えながら行動する平次は、対称的に違っていた。どうやら、やんちゃな妹をしっかりした兄が支えているそんな感じだ。

「まあ、そんなのはどうでもいいけどさ。お前ら、これからどうすんの?」

 速人は、疑問に思っていたことを二人に聞いてみる。さすがに未成年の二人がこれからどうしていくのか少し心配だったのだ。

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