002  ワンダーランドⅡ

 サジと出会ってから、十五分後には、大都市《リヴァプール》についた。

 昔、ここを拠点に活動していたことはあるが最近ではほとんどこの街に近づいた覚えがない。

 車はそのまま道路の真ん中を進んでいく。警察の車なのか、人々は道路端に避けながら歩いていく。サジは一つの建物の前まで走ると、左側に停車し、ウインカーランプのボタンを押した。

「おい、ついたぞ。ここが憲兵隊屯所けんぺいたいとんしょだ」

 さじに言われるがままに、ハヤトは車から降りる。屯所の門の右の柱には『憲兵隊屯所』という文字が刻まれていた。

「なんで、屯所……」

 ハヤトは、訳分からずにつれてこられた。なぜ、自分が屯所に来ることになったのか見当もつかない。何もしていないはずなのだ。

 サジの後ろを歩きながら屯所敷地内に入る。

「サジさん。遅かったですね。何かあったんですかい?」

 サジと同じ服の若い少年が声をかけてきた。

「ああ、ちょっと道端で公務執行妨害を連れてきた」

「へぇー、サジさんと真っ向から喧嘩する奴は初めて見ましたぜ。それでその木刀の奴がそうなんですかい?」

「ちょっと待て‼ 俺は何もしてねぇーし、そもそも犯罪も犯してねぇ! これは不当逮捕だ!」

 ハヤトはその少年に叫びながら抗議をした。自分が何もしていない無実だと証明するためだ。そして、小さく舌打ちをする。屯所内は、意外と広く昔の武家屋敷のような造りをしていた。現在のリヴァプールでは最大のギルドだろう。

「じゃあ、事情聴取するからこの部屋で待っててくれ……」

ふざけるな!

 結局、サジに一時間に及ぶ事情聴衆が行われた。自分の名前やアイテムなど、ほかの答えられる個人情報を訊かれた。正直言うと、ハヤトにとっては面倒くさい事だった。大体、なんでこんなことになったんだろうと思い出したくもない。

 お茶やかつ丼が出され、刑事ドラマのような現場だった。だが、かつ丼に普通ない者があった。なぜか、コーラがかけられていたのだ。

「おい、この犬のような餌は何だ? なんでカツ丼の上にコーラが乗っているの? 俺に何を食べさせたいわけ?」

「ああ、すまない。これは俺のだ。お前も食うか? コーラをかけるとおいしいぞ‼ コーラは人間が作った文明食だ」

「いらねぇ……。普通のを出せ‼ 普通のを……」

 普通のカツ丼を要求するハヤトは苛々しながら言った。

「なんもないなら俺は出ていくぞ」

「ああ、これ以上は何も言わねぇーよ。迷惑かけたな」

 サジに見送られて、憲兵隊の屯所から出たハヤトは空を見上げた。太陽は照り、雲がある。サジは煙草を吸いながらハヤトの隣に立った。

「なあ、閉じ込められたプレイヤーたちは皆、それぞれバラバラになっているのか?」

「それはいま調査中だ。そもそもログアウトができない状況でほとんどの奴らは混乱をしているだろう。お前も気をつけろよ……」」

 ハヤトは頷いて、《メインメニュー・ウインド》を開いて、色々と情報になりそうなものを探したがサーバーシステムは未だに復旧していない。

「分かってる。じゃあな。二度と会いたくねぇ」

「俺もだよ。もう、二度と来るんじゃねぇ……」

 サジに別れの言い、リヴァプールの街を久しぶりに歩いた。変わってもいないこの街は、いつも通りにうるさい。

「さて、これからどうすっかな……」

 確かにこれからどうするのかも決めていなかった。

 久々にあの自分の家に帰ろうと思った。元々は自分のではなかったが仮宿であり、そこに住んでいたことがある。

 憲兵隊の屯所を振り返る。

「面倒くせぇ、奴らに巻き込まれたな……」

 そう言いながらハヤトはある場所へと向かった。

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