属性は何を選択すればお嫁さんにしてくれますか?

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

第1章  ワンダーランド

001  ワンダーランドⅠ

 目覚めるとそこには草原が広がっていた。

 天気も良好、風も吹いて草原が果てしなく続いている。

 VRの様な完璧な現実世界がそこにある。体はしっかりと動く。体を起こして、《メインメニュー・ウインド》左手で操作すると、《ログアウトボタン》が存在していなかった。

 ここはVRMMOの世界である《ワンダーランド》だ。魔法や剣、銃などの異次元の世界である。

 自分はこの世界に閉じ込められたということになる。つまり、脱出手段が見当たらない。

「おいおい。マジかよ……。運営の方はどうなっているんだ?」

 独り言を言いながら、目の前の大樹に向けて歩き出す。ここは一度、見たことのある道だ。初期のころに訪れた覚えがある、

「まずは、街の方に向かった方が早いかもしれないな」

 表示されているマップを見ながら、ここから一番近い街を探し出す。自分のアカウントそのままになっており、キャラや服装、装備など変化したところは全く見当たらない。すると、《電話》に呼び出しの表示がされた。

 ボタンを押すと、相手プレイヤー名が表示される。『シンク』というプレイヤー名には心当たりがある。

「なんだ、お前か」

『なんだとはなんだ‼ それよりもこの世界はどうなっていやがる! ログアウトもできんぞ』

 何もつけずにその場で話しているのにシンクが大声で叫ぶせいか、耳障りがする。いつも聞きなれた声なのに懐かしいような声だ。

『それよりもお前、今、どこにいるんだ? なぜか、全プレイヤーがこの世界に閉じ込められたらしい。』

「マジでか‼ それよりもお前、馬鹿でかい声出すなよ。あいつ一緒になるぞ。声のでかい奴に……」

『いや、あいつよりかは俺の方がマシだ。奴は、どこにいても馬鹿だから死にはしないだろう。それよりもお前の方は大丈夫なのか? ハヤト』

「まあな。俺の方は、なぜか草原にいるよ……」

 苦笑しながら答える。なぜ、草原にいるのかハヤトにも分からない。

『そうか。俺も大体落ち着いたら連絡する。あ、そう言えば言い忘れていたが、くれぐれも気をつけろよ……』

「ああ、分かっている。」

 電源ボタンのところを押すと、通話終了と表示された。再び、《マップ》のところを押し、目の前に《ワンダーランド》のマップが表示される。ここから近い街と言ったら、北に約三キロに大都市がある。

 リヴァプール————

「また、厄介なところに飛ばされたな」

 ハヤトはマップを閉じると、大都市《リヴァプール》に向かって歩き出した。



 しばらく歩くと幽かにそれらしき都市が小さく見えた。

 木刀を腰に差しながら歩く。黒い着物を着ながら歩いていると、昔の侍の様だ。だが、これはゲームの世界、普通は防具などを装備しているのが常識である。

 と、何も考えずに歩いていると、なにやら後ろから音がしてきた。振り返ると遠くからこちらに車が走ってくる。異世界の設定が台無しに思われるが、この世界はほとんどが現実世界を取り入れた世界であるため、普通の事である。

 近くを通り過ぎる時、その車の様子を見ると、普通のぼろい四人乗りの軽自動車だった。屋根には、赤いランプが置いてある。

 憲兵隊だ。

 現実世界で言う警察組織と同じ役割を持つ選ばれしギルドだ。入るのにも色々と難易度が高いのである。

「お前、見ない顔だな。旅人か? 今、全世界でログアウトができない事態が起こっている。早めに街に行った方がいい。」

 車の窓を下におろしながら、中から憲兵隊の人が話しかけてきた。黒い制服を着ており、刈り上げ頭の二枚目だった。

「今からリヴァプールに行こうとしていたんだよ。」

 ハヤトは腐った魚の目のような表情でその憲兵隊に言った。

「なんだ、俺と一緒かよ……。仕方ねぇーな。後ろに乗れよ‼」

「はぁ?」

 憲兵隊の人は、そう言いながら後ろの扉を自動で開いた。ハヤトは少し戸惑い、首を傾げる。そして、面倒くさそうに後ろの席に乗った。

「俺の名前はサジだ。この先の街で憲兵隊の副局長を務めている。」

 彼はそう言った。つまり、この世界の憲兵隊副局長がこの角刈り野郎だということだ。世界というのは、不平等である。

「俺は……旅人Aだ」

「なるほど、旅人Aか……。そんなわけないだろ‼ 何が旅人Aだ!」

 ふざけたハヤトに対して、サジは怒鳴った。

「人助けをしてやった優しい警察に名前ぐらい言ってもいいだろ? それくらい常識だ‼ 馬鹿野郎‼ それに警察は警察でも何をやらかすかわからねぇーぞ。ま、と言っても今はこの世界にしかいられないんだけどな……」

 ハヤトはやれやれと思いながら欠伸をし、後部座席で横になりながらくつろぐ。そして、車は動き出した。

「お前は遠慮というのを知らないんだな。少しは大人しく座ったらどうなんだ?」

「ふざけるな。俺は警察なんぞに捕まったという不名誉な事なんぞ要らねぇーよ」

 ハヤトはサジに言い返して、自分の芯を突き通すつもりでいる。

 サジは煙草を吸いながら運転をしている。

 目の前には大都市《リヴァプール》が見えてきた。

 全プレイヤーが閉じ込められた日。新たな人生の始まりを意味していたのかもしれない。

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