肝試しの夜から

高山 流依

無題

 昨夜の蒸し暑い修学旅行2日目の夜の事だった。

 教師陣は頭が湧いてるのではないかと思った。夜の食事の時間がもうすぐ終わる頃に先生からの話があると思ったら、肝試しをするなんて言いやがった。一応しおりには2日目のよるはレクリエーションとだけ書かれていたが、肝試しとは考えなかった。

 しかも男女二人のペア、クラスの枠を跨ぐらしい。


 食堂の出口で男子用の番号を引いて一度部屋に戻ることになった。準備があるからというのと、この学年5クラスもあるから一々その場で同じ番号の相手を探すが大変だかららしい。後で放送で20組ずつ呼び出すようだ。



 俺は部屋に戻りスマホを弄っていた。

 俺は肝試しなんて面倒だが他の男子はどう思っているのか。


「肝試し相手誰だろうな」

「同じクラスの奴はゴメンだな気まずい。1年の時も同じクラスだった奴とかな」

「キャーキャーうるさいやつとかな」


 意外と他の男子達は乗り気だった。

 しばらくすると放送で呼び出しが開始された。同室の一人は番号が早いのか早速出ていった。

 俺は結構番号が後ろだから呼び出されるのはもう少し後だろう。

 それからスマホを弄りながら、男子達と会話をしていた。

 アナウンスで出ていく奴も何人かいたが一番にこの部屋を出た奴がもう戻ってきた。肝試しはそんなに短いのか?


「おーどうだった?」

「白い布被って脅かしてる先生もいればなんかおもちゃ使ってたりしてたな。赤ちゃんの泣き声とかもしたぞ。よくわからんお化けとかもいたな」

「あと手を繋げとか」


 布被ったりおもちゃ使ったりこの先生達はどこに力を入れているのか。


「60番から84番玄関先へ集合」


 と、話を聞いてるうちに俺の番が来た。俺は部屋を出て宿泊施設の玄関まで来て辺りを見回した。どうやら前にに呼ばれたグループも何組かまだ残っているようだ。

 前後の番号を確認して順番待ちしていると一人の女子が来た。


「あの…私80番なんですけど何番ですか?」

「80」


 俺は番号を見せながら言った。どうやら俺の相手のようだ。


「よろしくお願いします」

「よろしく」


 俺のパートナーは園田由芽だった。いわゆる学園マドンナ的なやつだ。

 入学当初は学年で一番可愛いと男女構わず人気だったが、上級生にも話題が広がった。そして学年が上がった今でもでも1年生から可愛いと評判を受けている。

 だが学園のマドンナがパートナーだと後で変な事聞かれそうだ。

 順番待ちをしてついに俺たちの番だ。


「いいかしっかり手を繋ぐんだぞ」


 肝試しから帰ってきたやつから話を聞いたが出発前にマジでそんな事言うのかよ……。

 俺たちは手を繋いでホテルを出た。



 月明かりのおかげ道はは明るい俺達は何事もなく進んでいく。

 だが気まずすぎる。なにも会話がない。あー早く終われ。

 だが静寂は突如として破られる。


「わああああああああ!!!!」

「きゃあああああああ!!!!」


 白い布を被った何かか出てきたが出てきた。お化け役の先生だろう。だが俺は先生がが出てきた事よりもそばで悲鳴を上げられた方が驚いた。腕を強く抱きつかれて痛い。

 

「大丈夫だ落ち着け。もういないから」

「えっ」


 驚かしたらもう任務は終わったとばかりに先生は引っ込んでいった。


「はぁ、ごめんなさい」

「いや大丈夫だ」

「私、こういうの苦手で……」


 園田は何か言葉を続けようといていたが口を閉じた。どうしたんだ?


「えっと、ごめんなさい名前知らないので」

「ああ、俺は馬野 昌二」


 なんだと思ったがそういう事か。園田とは同じクラスではない。1年の時だって別のクラスだった。知らないのも当然だ。


「馬野君はおばけとか得意なんですか」

「どうだろうな。クオリティによるかもな。出来のいいお化け屋敷ならビビるかもしれないが、今の先生達のクオリティじゃあまりといったところか」

「そうなんですね。これより出来のいいお化け屋敷とかはいったら気絶しちゃうかもしれません」

「そうか。だけどこの肝試しまだ始まったばかりだぜ」


 それを言ったとたん園田の顔が曇った。


「も、もうそんなこと言わないでください!」

「悪い」


 やっぱり肝試しは嫌なのか園田の顔は強張ったままだ。


「……何か話すか?気が紛れるように」


 あんまり気の利いたこと出来ないから今の俺にはこれくらいしか思いつかない。


「そ、そうですね。何か話しましょう!」


 怖いのは嫌なのだろう。少し気迫の入った返事を聞いた気がした。

 それからの俺達は学校での話題や家ではどんな生活をしてるかとかいろんな会話をした。

 なんだかんだ学園のマドンナと言われる園田との会話は少しうれしい。

 だが今は肝試し。会話の途中でおもちゃが飛び出してきたり、別の先生が脅かしたりした。そのたびに園田はキャーキャー悲鳴を上げていた。


「はぁ……先生達よくいろんな物用意してきましたね」

「先生達はこの修学旅行に力を入れてるのは肝試しなのか?」

「う~他の事に力を入れて欲しいです」

「そうだな、けどもうすぐゴールのはずだ頑張れ」

「はい!」


 と歩いていると


「よぉ」

「!」

「きゃああああ」


 懐中電灯の明かりを顔の下から当てている人が出てきた。よく見たら数学の先生だ。


「ちょっと止まってくれ」


 俺たちは言う通りに止まった。


「なにかあったんですか」

「前の組が遅くてなこのままだと合流するから待ってくれ」


 まさかの調整かよ。よく見たら先生トランシーバー持ってる……。先生がトランシーバーで何か会話したあと「行っていいよ」と言ったので俺たちは歩きだした。


「合流しないように調整するなんて……徹底してますね」

「これじゃあ本当に肝試しに力入れてるのは確定かな」


 と、歩いていると森林ばかりの景色から宿泊施設が見えてきた。


「ふぅ、もう終わりか」

「はぁ~よかった」


 どうやら終わりが見えて園田も力が抜けたようだ。強く握られていた手が少し緩んだのを感じだ。


「ん?」


 まっすぐ歩いていると白い物体が見える。見てみると布を被っているように見える。最後の脅かし役か?でもなんで隠れないんだ。

 よくみると顔がある位置に般若の仮面がついている。そして俺たちが近づくと両腕を大きく横に広げて道を塞いだ。

 脅かし役の先生は何もしゃべらない。まさか本物の幽霊じゃないだろうな。


「………っ!」


 園田は俺の手をまた強く握り返した。脅かしてこなかったとはいえこんな不気味なやつ怖いだろう。


「こっちだ」


 幸い道は少し広いので避けて進む事にした。だが避けて進んだ方向にお化けが塞いできた。逆側の方へ行ことうとすると同じように塞いできた。これじゃあ先に進めない。


「園田、走って逃げるぞ。準備はいいか」

「! ……大丈夫です」


 俺たちは道の真ん中の位置まで下がってそして走り出した。

やはりお化けは襲いかかってきた。俺は園田を庇うように走り続け気がついたら宿泊施設が目の前だった。


「おーお疲れ」


 そこには懐中電灯をもった先生が出迎えてくえた。


「部屋で休んでおけよ。また集合かけるから」


 園田が「わかりました」と返事をして俺たちが部屋に戻ろうとした時先生に声をかけられた。


「あ、もう手を離しても大丈夫だぞ。繋ぎたいままだったらいいけどな」


 そう言われてずっと手を繋いだままだったのに気づいた。教えてくれてよかった。


「気づかなくてすまん」

「い、いえ」


 俺達は宿泊施設の中に入った。


「馬野君、今日はありがとうございました。」

「いや、一緒にいただけで特に何もしてないよ」

「気が紛れるように会話してくれたの嬉しかったです。男の子と会話ってあまりしないので嬉しかったです」


 以外だった学園のマドンナといわれる園田が男子とあまり会話してないのか。まぁ中学2年とか思春期真っ最中だからな。女子と会話するの恥ずかしいというやつもいるだろう。


「あと最後のお化けから守ってくれてありがとう」


 そう言った園田の顔は笑顔だった。俺はなんか恥ずかしくて視線を逸らした。


「あれは不気味だったからな、何かあるといけないし」

「それでも嬉しかったです」

「そうか」


 少し間が出てしまった。この空気がなんかむず痒くて話題を変えた。


「また集合かけるみたいだし一度部屋に戻ってやすんでろよ。じゃあな」

「あ、はい!」


 俺は少し早足で部屋に戻った。

 


 部屋に戻ると同室のやつらが出迎えてくれた。


「お、戻ってきたか」

「どうだったか」

「誰が相手だったよ」


 口々に色々聞いてきやがった。


「園田だよ」

「えっ!?園田ってあの園田か」

「マドンナの事か!」


 やっぱりこうなった。相手がを隠したら逆に怪しまれるしな……


「マドンナが相手だからなんかあったんじゃねぇのかぁ?」

「特に何もなかったぞ」

「えーホントかよ」

「本当だ。俺は疲れたからほっておいてくれ」


 俺は部屋の隅で横たわった。


 

 しばらくすると「生徒全員ホールへ集合」と放送された。

 ホールへ行けば、まぁよくある先生からのありがたくもない長い話と明日は海で遊ぶけど気を抜くなという話だった。これで終わりかと思ったが最後の話がとんでもなかった。


「じゃあ最後に肝試しベストカップルを発表するぞ」


 なんだそれは………。

 流石の生徒も動揺していた。さんざん真面目な話をしたあとにベストカップル発表とはどういうことだ。


「えーと、ラッキーカップル賞2組、リアクションカップル賞2組、そして校長お墨付ベストカップル賞だ。選ばれたカップルは先生達からお菓子プレゼントするぞ」


 これは嫌だ。発表されたら他の生徒にネタにされるぞ。周りの奴らも嫌そうだ。

 


 まずはラッキーカップル賞が発表された。くじで84組から2組選ばれるという仕組み。ラッキーの名前のとおり本当に運だった。

 リアクションカップル賞は男女ともにリアクションがよかったカップルだそうだ。リアクションとはどんなリアクションかはわからないが肝試しなんだから先生達からの脅かしにいい感じにビビった組が選ばれたのだろう。ビビリレッテルが貼られてしまう。


 選ばれた人達はお菓子と拍手が贈られた。選ばれた本人達はあまり嬉しくなさそうだ。こんな事で選ばれても嬉しくないだろう。そして誰かが「ヒューヒュー」と囃し立てた事により言った事により一部の周りの生徒も「ヒューヒュー」と言い始めた。



「最後はベストカップル賞だ。最後にいたお化けは校長先生が自ら演じてくださったぞ」


 まさかの校長先生だった!


「ベストカップル賞の審査は校長先生だ。審査基準は校長先生扮するお化けに対してどう行動したかで判断したそうだ」


「ではベストカップル賞は校長先生が発表するぞ」


 校長先生が前に出た。一体どの男女が選ばれたのか。



「80番馬野昌二君と園田由芽さんです」


 聞き間違いだろうか。今俺の名前を呼んだのか。


「はい呼ばれた二人は前に出てください」


マジかよ……選ばれるとは一切考えなかった。とにかくさっさと前に出た。「ヒュゥ!」とか声がする。やめてくれ……。


「いやーこのカップルはね先生の胸にズキュンときちゃったんだよ」


 何がズキュンだ!そういうのいいからさっさと終わらせてくれ!!!


「馬野君が先生から園田さんの事守ってあげてるのを見てキュンって来ちゃった。肝試しでこういうのが見たかったんだよ~。もちろん他にもとてもいいカップルがいたよ。甲乙付け難かったけど一番ズキュンときたこのカップルにしたんだよ」


 先生の選考理由を聞いた生徒達が「ヒューヒュー」と更に囃し立てた。恥ずかしすぎるだろ……!


この後、俺と園田がお菓子をもらって今日は解散となった。解散後も同室の男子から寝るまでからかわれた。



そして今は3日目の午前中、生徒達は海で遊んでいた。3日目は午前中は海で遊び、昼食を済ませて帰る事になっている。


 今俺は遊び疲れて休憩しているところだ。昨夜の事もあって少し疲れているようだ。

 しばらくボーッとしてると声をかけられた。


「隣、いいですか?」


 園田だった。


「どうぞ」


 園田は「失礼します」と声をかけて座った。しばらく会話はなかった。俺は口を開いた。


「いいのか?ベストカップルに選ばれた俺たちが一緒にいると冷やかしとか受けるぞ」


 俺は冷やかしとかネタにされるのは好きではない。まぁそれは誰だって同じだろう。


「馬野君は嫌ですか?」

「……………」

「ごめんなさい。こんな聞き方はズルかったですね。実は友達から今馬野君が一人だから行って来いて言われて」


 女子達の考えはよくわからない。たかがベストカップル賞に選ばれただけで俺たちは付き合っているわけではない。なのにどうして二人っきりにさせるのか。


「嫌だったら戻ってもいいんだぞ。俺がしてやれる事は何もないし」


 嫌がるヤツと一緒にいてもしょうがない。離れるよう促したが思ってもない言葉が来た。


「馬野君も私が来た時にどうして断らなかったんですか?」


 痛いところを付かれた。確かに冷やかしや、からかわれるのが嫌なら断ればよかった。


「なんでだろうな。俺にもよくわからない」


 そう答えてまた無言になった。なんだろうか、このよくわからない空気は。


「昨日馬野君と初めて知り合ったばかりだからあなたの事はよく知りません。でも少しだけだけど会話して、肝試しで守ってくれて、それだけだけど私は嫌じゃないです」


 どうして昨日知り合った人間に対してそんな事を想えるのか。

 

「…………」


 俺は考えた。園田がここまで言ったんだ。俺も誠意を見せないと。


「俺はネタにされてイジられるとか冷やかされるとかは嫌だ。だけどお前の言うとおり嫌なら断ればいい。だけどそうしなかったのはきっとお前となら一緒にいてもいいと思ったからかもしれない」


 今の俺の素直気持ちを言った。園田の方へチラッと視線を向けると顔が赤い気がするのは気のせいだろうか。


「大丈夫か?」

「え?あっ、だ、大丈夫です!」

「体調とか悪かったら無理するなよ」

「はい……」


 なんか別の意味で気まずくなった気がするな。

 それにしてもこんな事言うなんて俺じゃないみたいだ。少し恥ずかしい。

 別に園田の事が好きだというわけではない。顔と名前だけ知っていてちゃんと知り合ったのは昨日が初めてだ。そう簡単に好きになるわけがない。

 

 俺はしっかりと考え一つの答えにたどり着いた。これが正しいかはどうかわからない。だが今言うしかない。


「なぁ園田。俺と友達にならないか」

「えっ」

「友達なら、一緒にいてもおかしくないだろ。会話したり色々。友達になってお互いの事知って。もしかしたら関係が変わるかもしれないし、変わらないかもしれない」

「…………」

「スマン、何言ってるか自分でもよくわからなくなって……」


 園田は俺の事をじっと見て口を開いた。


「いえ、そうですね。まずは友達からですね」


 園田は俺の手を取って言った。昨日と同じ笑顔で。


「私も……私と友達になってください」

「こちらこそ、よろしく」


 こうして俺、馬野昌二と園田由芽は友達になった。なんか清々しい気持ちだった。


「ではさっそく、修学旅行明けに遊びに行きましょう!」

「いきなりだな」

「私、とても馬野君と遊びたくて仕方がないんです!」

「そうだな。俺も園田と遊ぶのは楽しみだよ」


 友人となった俺たちの初めての夏休みはこれから始まる。


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