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「マスターはさ、嫌じゃないの?」
「何のお話しですか?」
「私のこと」
サチコさんはそう唐突に訊いた。え、本当に何の話?
「なんか会社の後輩が、私のこと嫌いみたいで」
ほうほう。
「偶然、聞いたんだよね。後輩たちが私のことが嫌いって話してるとこ」
あー、なるほど。
「どうして嫌いだと言っていたんです?」
サチコさんはバリバリ働いていて会社でもいろんな人に頼られているような感じがするけど。
「なんか冷たいって」
「冷たい、ですか」
確かにサバサバはしているけれど、冷たいとそれじゃぁ違うと思うけどな。
「自分でも良く分かっているんだけどね、思った事をそのまま口にしちゃってるって。さっきのチョコのこともそうだし」
ま、そうね。そうやってストレートに言われることって実際なかなかないことだし。たまに不味いって言われて店を出て行かれるときもあるけど。でもそれとサチコさんは違うじゃない。
「どう違うの?」
さっきまで淡々と話していたのに今度は不思議そうに首を傾げる。どうって、全然違うよ。
「サチコさんはちゃんとどうダメでどうしたらいいのかって言ってくれるでしょう? 批判だけじゃなくて意見をしてくださるじゃないですか」
確かに言い方はキツイ時もあるけれど、それはただ俺のことが嫌いだからじゃなくて、こういう人もいるんだよって教えてくれているから。そうやってしっかりと意見を言ってくれる人って少ないし、普通なら気に入らないと次の来店はないのにサチコさんはそうじゃないから。
「それはこの店が好きだからよ。少し自分の好みと違うからって来なくなったりしないもん」
「そういう所、とても素敵です」
傷つかないように言葉を柔らかくして次に続かない位なら、ストレートに思いのままを伝えてもらえた方が断然いい。
「前から思っていたけど、マスターって結構変わっているよね」
「自覚はありませんけれどね」
そう返すと彼女は瞳を三日月にして歯を見せて笑った。彼女は笑うととても可愛くていつもより幼く見えるんだ。そんな彼女のこの美しさを、いったい何人の人が知っているのだろう。
きっとオブラートに包んでいるのは自分自身で、こんなに素敵な彼女のことを見ようとしていないのだろう。なんてもったいない。
「もう一回チョコを食べたいな。もちろんピールは抜きで。他に美味しいチョコはないの?」
「ふふふ、少々お待ちを」
この世界はきっと気づけるか気付けないか、ただそれだけなんだろうね。
「私それが食べたい」
「かしこまりました」
残ったピールは俺が後で頂くよ。
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