第九章 輝く貴石達の中で瑠璃は唄う④
ライブハウスが開場すると、続々とお客さんが入ってきた。こっそりフロアを覗いてみると、わたし達のツアーTシャツを着ている人はもちろん、「アクラビ」さんや「林田家」さん、「レニデ」さんのグッズを身に着けている人もかなりいらっしゃる。アイドル主催のライブにも足を運んで頂いて、本当にありがたく思う。フロアはいつもだったら男女比はほとんど男性でポツポツと女性がいらっしゃるという感じなのだけれど、今日はその比率が少し違うのも面白かった。
黒のカーテンで隠されたステージでは一番手のバンドさんが音の調整をしている。フロアでは観客の皆さんがどんなライブになるのか、期待と不安が半々な様子でザワザワしていて、わたしも同じようにソワソワしていた。
わたしは楽屋に戻り、その時ふとルビーの姿が目に入って首を傾げる。
「どうしたの、ルビー?」
「え? なあに、ラピスちゃん?」
ルビーは小首を傾げながらわたしを見つめ返した。お化粧も衣装も頭のポニーテールもバッチリきまったルビーは、アイドルとして完璧に仕上がっているように見える。それなのに、なぜか瞳が頼りなげに揺れていた。
「ルビー、手も震えてるよ? 大丈夫?」
わたしがルビーの手を取ると、彼女の肩がビクリと震えた。
「ね、ねえ、ラピスちゃん……」
「ん?」
「ルビー……ルビーは、可愛い?」
不安に揺れる黒目がちの瞳がわたしに問いかけた。わたしはびっくりして目を見開いてから、すぐにくすりと笑う。
「当たり前のことを聞かないで。ルビーは世界で一番可愛いよ」
わたしはルビーの手を両手でギュッと包んだ。びっくりしたように固まってしまったルビーの手の甲を、わたしは優しく撫でる。
「大丈夫。ルビーはいつもどおり可愛いから。今日もいつもどおり出来るよ」
わたしに続くように、他のメンバーも次々と口を開く。
「そうだぜ! ルビーはすげー可愛いよ」
「ルチルもそう思うニャ」
「わたしもそう思う!」
みんなの言葉を聞いて、ルビーの体から力が抜けていくのがわかった。
「ごめん……ありがと、みんな。ルビー、みんなが大好き!」
彼女はわたしの手を取って頬にあてると、ふわりと微笑んだ。
「大丈夫だよ、ルビー。今日もいつもみたいに楽しくライブできるよ」
「……うん!」
ルビーはみんなを見回しながら、くしゃりと顔を崩して笑った。
※
開演時刻ジャスト、わたしとルチルは黒い幕を引いたままのステージに出ていった。
「みなさん、こんばんは! ハピプリ☆シンドロームの月岡ラピスです」
「穂積ルチルだニャ!」
「今日はこの二人で転換中のMCをさせてもらいますので、よろしくお願いします!」
フロアの皆さんが拍手を返してくれた。こういう幕間のMCというのは普段はやらないけれど、わたし達のことや出演バンドさん達を知らない人も多いはずなので、紹介を兼ねてやってみることにしたのだ。
「皆さま、本日はハピプリ主催イベントにお越し頂きまして誠にありがとうございます」
「ラピスちゃん、硬いナリよ。なに緊張してるんだニャ」
「緊張するよ! だって、今日出演して頂くのは素敵なバンドさんばかりなんだから」
「確かにそうナリね。え~と、最初のバンドさんはヒップホップとか、インダストリアルっぽくて、ミクスチャーな感じの……」
その説明にフロアの一部から歓声が上がる。
「これだけで誰かわかっちゃうのかニャ?」
「ファンの方にはわかっちゃうよ。こちらのバンドの方には今回のアルバムに本当にかっこいい曲を提供して頂いて、感謝ですね」
「ハピプリの新境地を開いてもらったナリ」
すると、幕の後ろから「ウェ~イ。オレらもすっげぇ楽しかったぁ!」と、YuckyLANDさんが軽い調子の返事をくれた。
「あんな感じで一見チャラい風ですけど、実は音楽に対してすごく熱い方だよね?」
「そうナリね。ルチル達、韻を踏んだ歌詞とかラップとか初めてだったんだニャ。そしたらユッキーさん、レコーディングの時、厳しく歌唱指導してくださったナリよ」
「真面目な方だよね」
フロアから「え~!」という驚きの声が上がると、幕の後ろのYuckyLANDさんが不満げな声を漏らす。
「ちょっとちょっと~。オレだってやる時はやるんでぇ。っていうかさぁ、二人とも、オレのキャラ設定崩壊させないでくれる~?」
「ニャハハハ! チャラキャラの方がいいってことナリか~?」
「ふふふ。そんなチャラい方から提供して頂いたあの曲、もしかしたら、このステージでコラボしちゃうかも?」
フロアから「お~!」と歓声が上がる。白けられたらどうしようと少し心配していたわたしは、その反応にほっと胸を撫で下ろした。同時にフロア後方のPA卓からのOKサインを確認する。
「準備が整ったみたいですね。ではでは、最高にチャラかっこいいお兄さん達――Acrobatic Rabbit Islandのステージをお楽しみください!」
※
Acrobatic Rabbit Islandのライブは圧巻だった。打ち込みのギラギラした派手な音と、重低音のバンドサウンドを組み合わせたミクスチャーロックがフロアを揺らす。
「どこのファンとか関係ないんでぇ。オレらの曲がいいって感じたら、軽い感じでノッちゃってくれていいんで~」
ボーカルのユッキーさんはそんな風に軽い調子で言う一方、曲中は楽器隊のメンバーと共に、挑みかかるようにフロアを激しく煽った。アクラビの尖った音とユッキーさんの迫力に、フロアがすぐに彼らのノリに染まっていく。わたし達のファンもペンライトを振りながら楽しそうにしていた。
「今日、めっちゃ、楽しいんですけどぉ! ペンライトとか初めてだし~、あがるね!」
アクラビが五曲を終えると、ユッキーさんはわたし達をステージに呼び込んでくれた。
「というわけで、お待ちかね、ハピプリちゃんの登場だよ~ん!」
「どうも~、ハピプリ☆シンドロームです!」
フロアの皆さんはわたし達五人を笑顔で迎えてくれた。
「じゃあ、ハピプリちゃん達、あのカッコいい曲やっちゃう~?」
「やっちゃう~!」
ルビーが可愛く手を挙げながら応えると、ドラムがリズムを取り始める。
「それじゃあ、今からぁ、最強にクールなオレらとぉ、最強に可愛いハピプリちゃんとでぇ、最強に楽しいディスコタイムにしちゃおうね~!」
ユッキーさんの煽り文句が終わると、ドラム・ベースのリズム隊と打ち込みの電子音とで組み立てられた「ロリポップ・キャンディ・ディスコ」のイントロが始まる。ユッキーさんが栃崎悠生a.k.a.YuckyLANDの名義で書き下ろしてくれた曲だ。
会場が暗転すると、天井に据えられていたミラーボールがゆっくりと降りてきて、キラキラと光の欠片を振り撒き始める。
一瞬で妖しく煌く世界に変わったステージで、コハクのソロダンスが始まった。わたし達のファンがオレンジのサイリウムを振り上げ、コハクコールを始める。同時に、他のファンの人達からも自然と「ヒュー!」という歓声が上がり、いつもと少し違う反応にコハクは嬉しそうに野性的な笑みを浮かべた。
みんなで踊り出すパートになる前に、わたしはチラリと二階席を確認する。二十席ほどのその場所には招待客として業界関係者の他、ルビーのおばあさんと由香里も座っている。ルビーはさらに別の「お客さん達」にも通常のチケットを渡していて、その人達はフロアの中に紛れているはずだ。横のルビーの表情をそっと確認すると、いつもステージ上で見せる愛らしい表情をしていて安心した。
歌唱パートが始まれば、ユッキーさんがわたし達の歌とハモったり、合いの手みたいな煽りを入れたり。その楽しい雰囲気に、わたし達もフロアのみんなも笑顔で踊る。楽器隊がいる分、ダンスのスペースが取れずに踊らないパートもできたけれど、その部分はユッキーさんの真似をしてクラップしたり、拳を振ったりした。
曲中のラップは通常はルチルの担当なのだが、今回はルチルとユッキーさんで交互に言い合う形をとった。アニメ声優のようなルチルの可愛らしい声と、男性にしては可愛らしいユッキーさんの声。二人の言葉の応酬は幼い兄妹のような微笑ましい雰囲気だった。
最後のサビは、簡易版のダンスをわたし達とユッキーさんとで合わせて踊る。
曲が終わると、会場から歓声と拍手が起こった。それはどんどん大きくなっていく。
わたしは安堵と歓喜とで心がふわふわしていた。ユッキーさんを始めアクラビのメンバーさんも、うちのメンバーも観客の皆さんも嬉しそうに笑っていて、このコラボレーションをやってみてよかったと心から思えた。
「みんな、楽しんでくれたぁ? そー。楽しかったよねぇ? オレらも超楽しかったぁ! ハピプリちゃ~ん、今日は呼んでくれて、一緒に歌ってくれて、ありがとね~」
「わたし達こそ、ありがとうございました! アクラビさんもファンの皆さんも……今会場にいるみんな、本当にありがとう!」
わたし達は笑顔でフロアに手を振りながら、袖に捌けていった。
※
ステージに幕が引かれ、フロア側の照明が点る。MC役であるわたしとルチルは再びマイクを握ってステージに出た。
「いや~、楽しかったね! バンドの生音で歌ったり、踊ったりって楽しい!」
「そうナリね、ラピスちゃん」
「アクラビさんとのコラボ、どうでした?」
フロアに問いかけると「カッコよかった!」「可愛かった!」という声が返ってきたので、わたしはにっこり笑う。
「そうでしょ! なにしろ、ユッキーさんの書き下ろし曲ですから」
「かっこいい曲だニャ」
「もし気に入ったけどまだCDを持っていないという方がいらっしゃいましたら、丁度後ろのハピプリ物販で、今はルビーとコハクが売り子をしてますので。よかったらお立ち寄りください!」
物販スペースでルビーとコハクが手を振る。
「お財布に余裕があれば是非ともご購入ください!」
「ラピスちゃん、アイドルなのにあんまり商売っ気出すのはイメージ的によくないニャ」
「そうかな? でも、可愛いグッズもたくさんあるので、ハピプリ物販、是非お立ち寄りください!」
「ラピスちゃんしつこいニャ……。それより、ルチルは次のバンドが気になるナリよ。次は誰かニャ?」
「え~っとですねえ……」
その時、幕の後ろで鍵盤とアコースティックギターの音が鳴った。途端に、フロアの一部の女性達が歓声を上げる。
「バレちゃいましたねえ」
「バレちゃったナリねえ」
わたしとルチルは顔を見合わせてくすくす笑う。
「こちらのバンドさんに提供して頂いた曲も本当に素敵なんですよね」
「ルチルもそう思うニャ。可愛いポップスなんだけど、すっごく爽やかできれいナリよ」
「もしかして、今回はその名曲もコラボで聴けちゃったり?」
「どうかニャ~?」
フロアから「おお~!」と歓声が上がった。その後、楽曲提供時のエピソードを少し話してから、準備完了のサインを受けてわたし達はMCを切り上げる。
「というわけで、爽やかに美しい曲を奏でる兄弟バンドの登場です。皆様、ハヤシダ・メゾンの音楽で素敵なひと時をお過ごしください」
※
会場を「ハヤシダ・メゾン」の心地よく爽快な音楽が満たしていく。
「みなさん、ありがとうございます。僕達の音楽を気に入って頂けたのであれば幸いです。楽しんでいってくださいね」
一曲目が終わり、アコースティックギターとメインボーカルを担当するハヤシダ・リュートさんが穏やかに微笑みながら言った。会場を称賛の拍手が満たしていく。
彼らは、アコースティックギター、ドラム、コントラバス、サックス、キーボードの編成で、気持ちの良いメロディーの曲をたくさん生み出している兄弟バンドだ。フロアの皆さんも自然と体を揺らしながら、「林田家」の清らかな演奏と、リュートさんの女声のようにしなやかな歌声に聴き入っている。
五曲を歌い終わって、リュートさんはタオルで汗を拭いながらフロアに語り掛けた。
「さてさて。そろそろハピプリ☆シンドロームさんをお呼びしましょうか」
会場から「ヒュ~!」という歓声が上がり、リュートさん達はくすくすと嬉しそうに笑った。わたし達は笑顔でフロアに手を振りながら、舞台袖からステージに出ていく。
「こんばんは、また出てきちゃいました。ハピプリ☆シンドロームです!」
「林田家の皆さん、ミニアルバムに素敵な曲を提供して頂いて、本当にありがとうございました!」
ヒスイがにっこりしながらお礼を言うと、メンバーの皆さんが相好を崩す。
「いえいえ。僕達も新鮮な体験で面白かったです。あと、可愛らしい振付けも考えてくれてありがとう。それでは、早速歌いましょう」
リュートさん達はアイコンタクトを交わしながら、ドラムのカウントに合わせて音を奏で始める。うっとりと聴き入ってしまう美しい演奏を贅沢に思いながら、わたし達は気持ちよく歌いだすことができた。
リュートさんが作曲、キーボードのハヤシダ・カノンさんが作詞、バンドの皆さんで編曲してくださったこの曲「ハミングバードの囀ずる朝に」は、爽やかで可愛いポップソングだ。柔らかな白の照明の中で、わたし達はリュートさんと一緒に心地良いメロディーを楽しく歌った。
曲の雰囲気から、コハクはあまり激しく動くダンスを付けずに、サビにはファンのみんなと一緒に踊れるよう、手の動きをメインにした振りを付けている。フロアではわたし達のファンはもちろん、他のバンドのファンの方にも真似して踊ってくださる方がいた。
この曲のもう一つの山場が変拍子のパートだ。急に歌メロが複雑な高低を繰り返すこのパートは、わたし達の中でも歌唱力の高いヒスイのソロになっている。
今回はヒスイとリュートさんとで楽しそうにハーモニーを生み出している。ヒスイがメインのメロディーを、リュートさんがハモリのメロディーを歌い、ヒスイはその複雑なメロディーを、リュートさんの声にも負けずに歌いきった。その瞬間にフロアから「おお~!」と感嘆の声が上がり、ヒスイは照れたようにはにかんで笑った。
「楽しかったですね」
曲が終わって、ハヤシダ・メゾンの皆さんが微笑みながらそう言ってくれた。
「はい。わたし達も楽しかったです!」
「ハピプリさんのステージも楽しみです」
「ありがとうございます。ハヤシダ・メゾンの皆さんも、ファンの皆さんも、今日はありがとうございました!」
わたし達は再びステージを降りた。
※
ステージに幕が引かれてすぐ、わたしとルチルはまたマイクを片手にMCを始める。
「ハヤシダ・メゾンさん、本当に素敵なステージでしたね」
「そうナリね。爽やかできれいだったニャ」
「あと、ハピプリとコラボした曲も素敵だったよねえ」
「手前味噌だけど、イイ感じだったニャ!」
「そうでしょ。そして、なんと、その楽曲が収録されたミニアルバムが、今丁度ハピプリ物販で販売中なんです! 歌はハピプリですが、演奏は林田家の皆様という豪華仕様! 林田家ファンの皆様にもおススメですよ!」
わたしが拳を握りながら力説すると、ルチルが呆れ顔でこっちを見てくる。
「ラピスちゃん……いい加減しつこいニャ」
「アハハ。ごめんごめん」
「でも、もう二組終わっちゃったナリね」
「そうだね。楽し過ぎてあっという間だったね。フロアの皆さんも楽しんでますか~?」
フロアから「イエ~イ!」というテンションの高い返事が返ってきて、わたしとルチルは顔を見合わせて笑う。
「ふふふ。そんな楽しい今日のイベント。次のバンドですが……」
「もうみんなわかってるナリね!」
フロアから「レニデ~!」という声が次々と上がる。
「そうです。我々も以前からお世話になっているレイニー・デイズさん!」
「前にも楽曲提供してもらったナリよ」
「ご夫婦でバンドなさってるんですよね。理想の夫婦だと思うなあ」
「そうナリね。ミニアルバム完成の打ち上げの時、酔っぱらったICHIYAさんが『俺はSAYURIの才能に世界で一番惚れてるんだよ。だからアイツが自由に音楽出来るようになんだってしてやりたいんだよ』って言ってたニャ」
「きゃ~! 理想の夫婦ぅ~!」
会場からも「フゥ~!」と歓声が上がるけれど、幕の後ろから抗議するようにベースの音がブイブイと激しく鳴らされた。
「もしかして、照れてるんですかね、ICHIYAさん」
「可愛いニャ!」
そんな形でわたしとルチルとフロアとでワイワイと盛り上がりながらMCを続けた。
「でも、ICHIYAさんの気持ちわかります。本当に素敵でかっこいい音楽だから」
「そうナリね。あ、そろそろ準備できたみたいだニャ」
「それでは、お待ちかね。特に激しく、特に優しく、聴いていると切なく感情が揺さぶられる素晴らしいバンド。レイニー・デイズさんの登場です」
※
「一曲目、『窓の外、雷雨』!」
エレキギターを構えたSAYURIさんが吼えると、フロアから「ヴォーイ!」と気合いの入った低い声が返ってくる。始まったハードな楽曲に合わせて、フロアの観客は激しく暴れ始めた。
レイニー・デイズの曲は激しく煽り立てるハードなロックから、優しくクリアな音を使った繊細な曲まで幅が広い。サポートのドラムのチカラさんが叩くダイナミックな打撃音、ICHIYAさんのベースが生み出す気持ちのいいグルーブ、SAYURIさんのギターが生み出す多彩な音がフロアを覆いつくす。そして、SAYURIさんのハスキーな声が激しく、淡く、艶やかに歌の世界を紡ぎ出す。観客はそれらの音に、拳を上げ、頭を振り、体を揺らした。
披露された五曲ともがフロアを狂乱と感傷で満たし、それらが終わるとSAYURIさんは満足げに笑いながら言った。
「いや~、いい汗かいたわ。じゃあ、最後はハピプリのみんなと一緒に締めようか。みんな、おいで!」
「三度目のこんばんは! ハピプリ☆シンドロームで~す!」
わたし達はまた手を振りながらステージに上がる。
「レイニー・デイズさん、今日はご出演ありがとうございました」
わたしの感謝の言葉に、ICHIYAさんは少し不満げな顔をする。
「こちらこそ呼んでくれてありがとうなんだけどさ、あんまり俺を弄って遊ばないでね」
「あはは! すみません!」
わたしとルチルがICHIYAさんに頭を下げると、SAYURIさんがおかしそうに笑った。
「いや~、楽しいわ。いつもの対バンだと野郎どもが多いからさ、女の子達に取り囲まれるのって、すごく楽しい。ハピプリファンのみんなもわたし達のステージで盛り上がってくれてありがとね!」
SAYURIさんの言葉に、みんながペンライトを振って応えてくれた。
「じゃ、早速、曲やろうか」
ドラムのカウントでイントロが始まった。SAYURIさんのギターはクリアな音色のアルペジオで優美な世界を描き出し、ICHIYAさんのベースは優しい音でリズムを刻む。
SAYURIさん作詞作曲の「フェアリーたちの夢見るキネマ」。この曲は幻想的で、不思議な浮遊感を感じる音が印象的なミディアムバラードだった。
わたし達はコハクの考えたバレエの動きを取り入れたダンスを踊る。五人揃いのフリではなく、一拍ずつずれながら踊っていくパートが多くて、ダンスもどこか幻想的だ。
本当はわたし達のソロパートを減らして、その分をSAYURIさんに歌ってもらうつもりだったのだけれど、「この詞はみんなをイメージして書いたから、わたしじゃ似合わない」と固辞されてしまった。その代わり、サビはSAYURIさんに一緒に歌ってもらう。みんな笑顔の楽しいひと時だった。
「ハピプリのみんな、楽しかったよ。ありがとう!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
わたし達はSAYURIさん、ICHIYAさん、サポートドラムのチカラさんと握手を交わしていく。
「レイニー・デイズさんがいたからミニアルバムも出せたし、活動も続けられたんです。本当にありがとうございました」
「違うわ。みんなががんばったからよ」
「そうだぜ。ハピプリファンのみんな、がんばり屋ないい子達のファンになったな!」
ICHIYAさんの言葉に、フロアのみんなが嬉しそうに歓声を上げてくれた。
「さて、次はハピプリの番だね」
SAYURIさんの言葉に、わたし達は大きく頷く。
「はい! がんばります! みんな、期待して待っててね!」
わたし達は手を振りながらステージから捌けた。
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