奴隷の領主
あのエルフが来てから今日で5カ月と12日。今日すべきことを本を開き確認する。毎朝の日課となっているが、そのたびに先が長いことを実感し吐き気を覚える。実際のところ1割も進んでいない。
なぜこんなことをしなければならないのか、それは分からない。ただ6冊の続き物の官能小説を渡され、これに書かれた領主と同じようにエルフの奴隷を扱えと命令されたのみである。そして命令は人とエルフ両王家からの命令であるという。
始めにそれを聞かされたときは頭が真っ白になった。私はただ前もって王よりの特命があると王家直属の密偵より聞かされていたのみ。まさかそれがこのような訳の分からないもので、さらにエルフの王家が関わっているとは思ってもみなかった。
そしてその際に告げられた事実が私をさらに追い詰めた。
人類最大の功績があるとすればそれはエルフと和平を結んだことだろう。人類はこの世界で強い部類ではあるが、エルフや龍種に比べれば個の力も集団の力でも大きく劣る。
実際、エルフ族と戦争を始めた先々代王家は人類史上最低の無能であると批判されている。しかしなぜ戦争が始まったのか記録には一切残されておらずエルフ族の侵略があり致し方なかったという説もある。
戦争の始まりに関しては想像で語るしかないが、終わりに関しては幼子でも知っている。人の勇者がエルフの王に1対1の決闘を挑み勝利をおさめその戦利品としてエルフと人類の和平を望んだといものだ。
これは虚だ。和平に大きく貢献した勇者と呼ばれる者は存在し高齢だが今も生きてはいる。ただし和平までの経緯は真っ赤な嘘である。
実際は自分たちごと世界を滅ぼすことが可能な兵器を人間が作り、それを作ったのが勇者である。先代王がその兵器を盾にエルフとの休戦を申し出てそれを結んだ。しかしそのままを公表すればエルフどころか他種族からも攻撃される可能性がる。
特に龍種だけにはこれを知られてはならなかった。あれらは世界の理が崩壊しようと生きながらえることができる唯一の種族。現世界が気に入っているため特に何もしないというだけの化け物どもだ。
人が作った兵器なぞ大した脅しにもならない。逆にその存在を知られ奪取されれば龍種に逆らうことができる種族はいなくなる。
故に事実を隠し英雄譚を作りあげ、それを真実とした。真実を知っているのは人とエルフの王族と勇者、かつての休戦締結に関わった者たち。そしてエルフを押し付けられた自分のみである。
このために信頼できる家臣たちは首都へと召し上げられ、心を許せた召使たちは王家直下の密偵たちに差し替えられた。
頼れるものもおらず、訳も分からぬまま人とエルフの両王からの命令という重圧に耐えながら今日も下劣な領主を演じる。脚本である物語はまだまだ続いている。
これをやり遂げることはできるのか、そもそも失敗の定義は?失敗したらどうなる?このエルフは何者か?何故こんなことをしなければならないのか?
疑問は尽きず不安は溜り精神はすり減る。
ただ一つ分かったことは、この奴隷役を担っているエルフは自主的にこの役についているということだ。時折見せる物語に描かれていない歪な笑みがそれを証明していた。
予定ではこの物語が完結するのはエルフを奴隷としてから約5年後。領主が真実の愛に目覚め、エルフと婚約し子を授かって幸せな家庭を築くことで幕を閉じる。
今はまだ序の口。描かれているように奴隷を
行く道も地獄たどり着く先も地獄。倒れることは許されない、ただただ命令を遂行する。そうするしかないのだ。
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