第7話親睦を深めよう

 ゴンは、かつてはグーンと同じ、人々の個性を奪う活動をしていたそうだ。いまいちピンとこないけど、私達の世界とは違う、並行世界のひとつで。


 その世界ではそれが当たり前で、ゴン達はブラウンを生み出すのが目的ではなく、個性、彼らのいうカガヤケルを持つのがタブーとされているようだ。私達の世界と大して変わらないらしいが、まるでどこかのディストピアストーリーみたい。


「でも、真白と水江に出会って分かったんだぜ。この世界はオレがいた世界とは違う。カガヤケルを守っていかなきゃってな」


 価値観の変化により、ゴンはブラウンではなく、エクスコーデの力を与えることが出来るようになった。だがそれは、強いカガヤケルを


持つ人に限られるそうだ。


「若菜っち~、何歌う?」


「最初は私から歌うわよ」


 今日は放課後、カラオケボックスに来ていた。


 魔法少女部の親睦を深めるのが目的だそうだ。


 まあ、カラオケくらいならいいだろう。健全だ。


 しかし、私は今までここに来たことがない。


 二人は見たところ慣れたものだ。しょっちゅう足を運んでいたのだろう。


「オレはかよーきょくを歌いたいんだぜ!個性が宿る歌だぜ!」


「ゴン、店員が入ってきたきたら、ちゃんとぬいぐるみのフリをするのよ。っていうか歌謡曲は昔流行った歌の総称よ」


 なぜゴンまで付いてきているのだろう。


 私はしばらく聴く役に徹することにした。




「ふぅ、そろそろ委員長も歌ったら?」


「アタシもそろそろ若菜っちの歌、聴きた~い」


 二人の歌が上手すぎて、ハードルが上がりまくってるんだけど……。


 真白みたいに洋楽とか歌えないし、水江みたいに流行りの曲を片っ端からチェックとかしてないし……。


「じ、じゃあ、キスマイ歌おっかな」


「おお~、さては若菜っち、ジャニオタ?」


「意外ね」


「べ、別にいいじゃない!」


 下手なのは仕方ないにしても、問題は……。


 イントロが流れてくる。


「ゴメン、私、サビしか分からない……」


 CDは何度も聞いている。


 でもカラオケ自体が初めてなので、歌うタイミングなどがよく分からないのだ。


「じゃ、アタシが一緒に歌ったげるよ」




「はぁ、はぁ……」


「若菜っち、声でてないよ~」


 カラオケって、難しい。


「もう一回、歌ったら?」


「じゃ、もう一回歌お☆」


 ええい、もうやけくそだ。




「いいじゃ~ん、良かったよ、若菜っち」


 音程がズレないよう気を付けながら、必死で歌った。おかげでヘトヘトだ。


「ほ……ホントに?下手じゃなかった?」


「ちょっとは『あなたらしさ』が見られたわ」


 私らしさってなんだ。


「上手いとか下手とか関係ないっしょ。若菜っちのキスマイ愛が伝わってきて、スゴイ良かったよ!」


 水江が親指を立てる。


 確かに、今のは歌ってて気持ちよかったかも。


「いつもそれくらい、はっちゃけてた方が可愛いんじゃないかしら」


「べ、別に可愛くなくていいし」


「若菜のカガヤケルが、いい感じに高まってるぜ!」


 初めてのカラオケは、楽しかった。


 こんなに楽しかったのは、中学生の頃以来かな……。

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