CASE 赤ずきん ‐欠損収集者‐ 3


 帰り道だ。

 とても、暗く深い。

 日の光が、殆ど当たらない。


 途中、人間の頭部が生る木を幾つか見つけた。

 人間の頭の実が生っている樹木が、幾つも幾つも見つかる。

 まるで、ヤシの実のように生っている。

 そういえば、来た時には、無かったものだ。

 あんな気持ちが悪い植物など、一目見れば忘れるわけがない……。

 人間の頭をした、人間の赤ん坊のような頭をした果物は、笑っている。呻いている。啜り泣いている。もがき苦しんでいる。彼らはこのような姿で産まれて、幸福なのか。少なくとも、セルジュの眼には幸せそうには、映らない……。


「あの女。あの女……。あの頭は種みたいに、地面に埋めて、ぽこぽこ生えるのか? ああ、そうだ。シャベルがあったぞ。取っ手が壊れているが、シャベルが幾つもあったぞ。ああ、あの女、こんな場所で栽培してやがったんだな……」

 本当に、最低な気分になる。


 セルジュは、地図をまじまじと見る。

 …………、此処がどこだか分からない。……迷った。

「ああ、畜生ぉぉぉおぉぉぉぉぉっ! あの赤ずきんがイカれた話を俺に聞かせ続けるからだっ! 混乱しながら、道を歩いてしまっただろうがああああああああぁぁぁぁぁっ!」

 セルジュは森の中で絶叫する。

 彼の声は、木霊となって響き渡っていた。


 仕方ないので、しばらく今、進んでいる道を歩き続ける。

 歩いていれば、見覚えのある道に辿り着くかもしれない。


 橋があった。

 橋の下には、河があった。

 濁流だ。

 近くに、滝があるのも、音で分かる。

 この河は死後の世界へと繋がっているのだろうか?


 セルジュは、橋を渡り終える。

 ふと。

 後ろから、何者かの気配がした。

 彼は振り返る。


 そいつは、無造作に橋の向こうに立っていた。

 狼だ。

 だが、人間のように直立歩行している。

 人狼(じんろう)とでも言うのだろうか。

 明らかに、セルジュに対して、敵意のような視線を向けていた。


「こいよ。ハラワタ煮えくりかえってきた処なんだ、この俺を襲ってこいよ」


 人狼は、セルジュへ向けて襲い掛かってきた。

 橋を飛び越えて、跳躍して。


 セルジュは、ドレスの腰元から小さな刃物を取り出す。

 そして、彼もまた跳躍して、刃を振るう。


 勝負は一瞬でついた。


 人狼の首は落とされた。

 そして、落とされた獣の首は人間の首へと変化していく。無精ひげだらけの中年男性の顔だ。


「ああああああぁあぁぁぁっぁぁぁっぁああああ、レイスゥゥゥゥゥゥウx、レイスウッゥゥゥウゥゥゥゥ、俺の娘。俺の娘。俺の娘。あの女を犯して作った、俺の娘ぇっぇっぇぇぇえええええ、可愛いな。可愛いな。お前、お前、お前、お前、中身は男なんだろぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉおぉおおおっ! 俺の娘ぇに、手を出すなよぉぉぉお。可愛いぃぃいx、レイスゥゥゥゥウゥゥウゥウゥゥにいいぃぃぃいぃ。い、いいいい、ひひひぃ、それにしても、あの女は可愛かったなぁあぁぁあああああ、ムリヤリ凌辱して、泣き叫びながら、犯すの、可愛かったなあああああああああああっぁぁあああああっ!」

 生首だけになり、唾液を吐き散らしながら、中年男はのたうち回っていた。

 頭部を失った狼の部位は、全身、痙攣を起こしていた。


「あー。この景色、昨日、見た事あるわ。この地点が、此処に繋がっていて、あの道に向かえば。出口はすぐ先だなっ!」

 セルジュは、化け物の喚き声を完璧なまでに無視して、ひたすらに帰り道へと歩みを進めていった。



「あー。あの水子の顔をした果物なあ。普通に甘くて、食えるらしいぞ」

 デス・ウィングは、店の中で、そんな事を話す。


「はあああああああああっ!?」

「いや、私、あの赤ずきんからたまに貰うんだ。供養してやるって言ったら、喜んで大量に渡してくれる。で、売れる。結構な収入源になる。なんでも、スイカとかマンゴーの中間くらいの味で凄い美味らしい。私は食べる気がしないが」

 デス・ウィングは、楽しそうな顔で、人骨で作られたアクセサリーの殺菌洗浄を行っていた。


「なんでも、聞く処によると。あの果物。食べる時に、物凄い悲鳴を上げるらしいなあ。それでさ。呪詛の言葉をマトモに聞いた奴は、身体の何処かに食べた人間を、癌のように殺しにくる人面瘡(じんめんそう)が出来るとか。だから、そのなんだ。百円ショップのさ、耳栓もセットで売っている。何度も購入してくれないとリピーターになってくれないからさあ」

 セルジュはそれを聞いて、唇を震わし、思わず、デス・ウィングの人間性を真剣に疑う。


「こ、この、人非人(にんぴにん)がああああああああああああああっ!」

 セルジュは店内で、思わず絶叫していた。

 私はそもそも、人間じゃないと思うんだが。と、デス・ウィングは大欠伸で返すのだった……。


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『冥府の河の向こうは綺麗かな。』 朧塚 @oboroduka

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