第43話 ここは私に戦わせていただけますか?

「はっはっはっはっはっ!! 待たせたなぁっ!!!」

 

 相変わらず派手な出で立ちに、その侍従の数たるやこと。


 ……前に比べて船もそうだが、女の戦士の服装まで煌びやかになってんな。


「どうした! 成り上がり、我が部隊の精鋭さと優雅さに恐れいったか!?」


「いや、いきなりなんでこんな派手な格好になってんだ?」


「ふっ! 敢えて今回わざわざ赴いてやったのだ、説明するのは面倒だが、教えてやろう」


 いや、別にそんな自慢げに教えて貰う必要もないんだがな。


「まぁ、我が島が管理する金鉱において、新たな鉱脈が見つかってな。国王殿下にその旨を申し上げた所、報奨を頂いたのだ。故に、これはその報奨が用いて王殿下に尽くそうという心構えの為だ」


「……馬鹿じゃないの?」

 

 ヘレンはそれを聞いて、目を細めてそうボヤく。


「さてと、それはそうと約束通りきちんと条件を持ってきたぞ」


 タンヂはそう言うと、羊皮紙を一枚見せる。


「これが、今回君の管理するソウファ島の持つ漁場権を明記した権利書だ。今は私が持っているが故に、私の管轄であるが、これを条件と通して返す」


「ふーん、その条件って?」


 俺がそう聞くと、タンヂはフッと笑う。


「当然、決闘だ」


「俺とお前の?」


「いや、私とお前でなく、君の島の戦士と我が島の戦士との決闘となる」


 何でも、元はソウファ島とスモジュ島の戦士同士でのやり取りを経たものである以上、慣習に則りそうなるのだとか。


 まぁ、言わんとすることは分かる。


「それで、この条件を飲むか?」


「いやまぁ、そりゃどうするか……」


 俺がそう考えていると、アリスが口を挟む。


「飲む飲む飲む!! 私が出る!!」


 いや、お前は出なくて良い、という事でアレックスに飲み込ませる。


「え!? なんで!? 待ってよぉダーリ……、ぐぼぼぼぉ」


「すまんな、アリス。俺は一応勝てる勝負をしたいんだ」


 アレックスの口に飲み込まれる彼女を見て、謝罪の言葉を口にする。


 すると、次に名乗り出たのはヘレンだった。


「……旦那様、ここは私に戦わせていただけますか?」


 それを聞いて俺は驚く。

「えっ!? お前が出るの!?」


「……旦那様の願いは漁場を取り返す事なのでしょう?」


「そ、そうだけど」


「……それならば、妻の役目を果たすまでです」


 そう言って、ヘレンは手を握ってくる。


「……必ず勝ちますので」


「お、おう」


 ちょっと微妙な空気が流れる。


 が、それを見て面白くなさそうにタンヂが地団駄を踏む。


「おいこらぁっ!! 私はヘレンとの婚約を解消したつもりは無いからな!! そうやって簡単にいちゃつくんじゃなあぃっ!!」


 ……まだ諦めてないのかお前。


「それにだ!! 幾らなんでもスモジュ島の元聖戦士だった者が別の島の為に戦うなど道義上許されないのだぁっ!」


「……私は旦那様の為に戦うのであって、スモジュ島の人間では無いので悪しからず」


 そう言うと、タンヂはぐぬぬと悔しそうに歯嚙みする。


 そこへ、


「いいじゃないですか、徴税官様。私は別に先輩と戦おうとも何も問題はありませんよ」


 と、若い女の声がする。


 女戦士の中から出てきたのは、茶色のショートヘアに背はやや低いが、重そうな篭手と胸部装甲に身を包んだ少女。


 年齢は十四、五くらいか。


 そんな若そうな子だが、他の女戦士と醸し出すオーラがなんか違う。


 その子は慣れた様子でアックスを振りながら持つと、ヘレンを睨みつける。


 彼女を見て、ヘレンは表情を変える。


「……ヴィクトリア? まさか貴方が後継の聖戦士とは」


「お久しぶりです、先輩」


「……あなたみたいな子が、まさかスモジュ島の聖戦士になるとは、ね」


「いやあ、先輩にあれだけ可愛がられてきたのですから、嫌でも強くなってますよ。今までの戦績は三十九戦三十六敗三分ですけど、今回は負ける気はしませんよ」


 挑発的な目で、ヴィクトリアはヘレンを睨む。


 ……ていうか、そんだけ戦って負けてるってアリスに次ぐ記録じゃね?


「……その三回の引き分け、あなたが人の寝る時間に襲ってきただけだと思うけど?」


 随分迷惑な後輩だ。


「そんなことより、何でも随分野菜作りとかに精を出して、武術は疎かになってるらしいじゃないですか。そんな先輩が今の私に勝てるとは思いませんけどぉ?」


「……軽口を言うより、アックスを交わし合った方が早いわね」


 静かな怒りのオーラをヘレンから感じる。


 ……どうやら、因縁の関係がありそうな二人だ。

 

「だ、大丈夫ですかね御主人様? これ聖戦士って言ったら、かなり強い人たちの戦いなんですどぉ」


「うーん……、そうは言っても二人を止めようとしても、もうそういう空気でもないし」


 実際、ヘレンは俺が始めて彼女に会った時のような、闘志を目に宿している。


 そうして、ヘレンは家からかつての聖戦士の戦闘服を着て出てくると、海へと向かう。


「体、痛めないようにな」


 俺がそう言うと、彼女は微笑んで頷く。


 ほ、本当に大丈夫だろうか?


※次は9/10の12時投稿予定です。

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