第39話 無慈悲だが正論
学校の建築は、とりあえず俺とアリスで、そして手伝いを子供たちにして貰うことにした。
先ずは修繕。
だって、子供にとってはみれば思い出の場所になる訳だし。
アリスに至っては「戦士アカデミーなんて監督が厳しくて、監獄みたいな場所だったから二度と行きたくないっ!」とか言ってたけど。
……まぁ良い意味でも、悪い意味でも記憶に残る。
と、いう気持ちを伝えアリスに提案すると、同意を貰った。
「島の子供の為なら、やったげないとねっ!」
納得して貰えたようで良かった。
それに、島民にとってもきちんとそうした物を作った、というアピールも大事だと思ったからだが。
ただ預かる訳でなくて、子供の将来の為に備える場所ということで。
作業を始めると、子供と一緒に崩れた壁に漆喰を塗るアリスは、上機嫌に鼻歌交じり。
「頑張ってるなぁ」
思わず気持ちがそう口に出るが、何だかんだ子供と遊ぶアリス。
「漆喰ばくだん!」
悪ガキの漆喰玉を受けて、服が汚れるアリス。
「こらぁっ!! 何するのよぉ!」
そう言って、悪ガキを追いかける。
「げ、元気なのは何よりだ」
だが、ふとある事に気が付いた。
……そういや、学校作るのは良いとして、何を教えれば良いんだ?
まぁ、アリスみたいに御守する保育園ってだけだと島の為にもなるが、成長という意味では戦略にはならないしなぁ。
江戸時代だって、寺子屋があったから子供すら自分の名前は書けるとか、っていう文化があったわけだし。
とりあえず、教えるっていうと国語・算数・理科・社会とかそういうのだってのは分かるけど、俺この世界の文字知らねえよな?
そんな疑問を、昼飯時にアリスへ言ってみると……。
「え? 私も字が読めないけど」
「……は?」
俺の目は点になる。
「いや、お前何とらアカデミーとかに行ってた筈じゃ……」
「戦士アカデミーは別に字が読めなくたって、何か一つ体術が得意なら受かるのよ。私は因みに水泳だったけど」
「で、でもヘレンは字が読めたような……」
「そりゃヘレンはまぁ……、金持ちだし」
目が泳いでるぞ。
「一応お前もソウファ島の酋長の娘だってんなら、字を学ぶくらいはあっただろう?」
「うーん、昔から机に座って勉強するって性に合わなくて」
「……じゃあ子供に何を教えるつもりでいたんだよ」
「狩りの仕方とか、ナイフの使い方とか、海の泳ぎ方とか? ほらっ! 生きる為の知恵ってやつっ!」
「いやまぁ、それはそれで子供の為にもなるってのは大いなる事実だけど。学校ってそれだけするもんでもないしなぁ」
俺はポリポリと頭を掻く。
そりゃあ、生きるってならそうした技術の取得も重要ではある。
言うなれば、アリスのやり方では体育と水泳の授業ばっかりやるようなもんだ。
それも決して悪いことじゃないけど、俺の考えてる図とはちょっと違うってだけ。
「要は、子供を預かるってのも大事だけど、そんな子供を預けてる親の為にも、今後良い生活が出来るようにって勉強を教えようというかなんと言うか……」
「うーん……? なるほど」
こいつ、あんまり分かってないがとりあえず頷いたやつだな。
……とりあえず、俺が何とかしておかないといけないのだろうな。
壁の修繕と同時並行で、椅子と机も作る。
天井まで直ぐ作るのは時間がかかるので、必要な道具を揃えて教室を開くことにする。
こうして、子供二十名分の教室セットは出来たのだが。
「と、言う訳でだ、読み書きとかの問題なのだが……」
俺が頼んだ先は、ヘレンだった。
「……私がですか?」
「そう、アリスが字を読めないというわけで、簡単な読み書きはヘレンにやって貰いたい」
その頼みに、アリスは反論する。
「えーっ! なんでヘレンが先生やるのぉっ! 私もきちんと戦い方とか魚の獲り方とか教えられるもんっ!」
そういう話じゃないって言ってるんだがなぁ。
事情を説明すると、ヘレンは大きくため息を漏らす。
「……アリス、あなたが読み書きできないのは知ってたけど、それだけだったらこの島も農園が出来てなかったわけでしょ? 勉強を疎かにすると、自然と貧しくなるものよ? あなた、島が豊かになって人が戻ってきたと喜んでいるけど、それは旦那様の農業や交易という学問の知識があってこそ。だから、勉強をしないまま過ぎれば、また島が貧しくなる可能性もあるけど、それで良くて?」
「ぐっ!?」
あ、心にナイフが刺さった。
痛い所をつかれたのか、アリスは観念したように言う。
あと、俺の知識は全部技術指南書のお陰だけどな。
「わ、わかったわよ! 勉強するわよ! 私もきちんと勉強するからぁ」
そう言うと、アリスはヘレンに縋りつく。
「だからぁ、何か簡単に文字とか計算覚えられる方法ない?」
「……そんなのものあるなら、みんな学校なんて行かないわよ」
「えー、でもそんなんじゃなきゃむりぃ!」
無慈悲だが正論。
しかし、ヘレンは優しく諭す。
「……子供と手紙で会話したりとか、そういう楽しみも増えるわよ」
「手紙?」
「……そう、手紙。人に気持ちを伝えるのは、何も話すだけではないわ」
その言葉に、彼女は暫く腕を組んでいると、ハッとした顔をする。
「分かった! じゃあ頑張るわ!」
おおい、アッサリ納得したな。
とりあえず、その日はヘレンが読み書きを教えてくれることになった。
文字の読み方、名前の書き方。
やれるようになれば子供達も楽しいのか、羊皮紙に羽根ペンを走らせ、文字を学ぶ事を楽しんでいる。
その教室の奥で、一人デカい子供が授業を受けているのは、中々面白い構図だ。
「あ、デカパイのねーちゃん名前書けないんだ」
「えー、大人なのに書けないんだー」
「そ、そんな事ないもん! 私だってやれるしっ!」
……まぁ頑張って欲しいと俺は見守るしか無い。
※次回は9/6の12時に投稿予定です。
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