第34話 俺が引き取ることになったから
街へと着くと、メルナと別れてからサマーレーの屯所へと向かう。
そこで、オスカーから礼を言われた。
「どうも、王様からの連絡がありまして、貴方の任を解くと来ていました。本当に色々とありがとうございます。随分と人も戻ってきました」
「あぁ、そいつはよかった」
「それでどうでした? プルサ村には行けましたか?」
「行けましたよ! 天国への階段も見れました」
それを聞いて、オスカーは驚く。
「それはすごいっ! 今まであの場所は地元の人ですら見せて貰えない、彼らの聖地だと聞いてますからねえ」
「は、ははは。そうみたいですねぇ」
「そうですよ。何でも、彼らにとっては神と話す祭壇に使う、という場所らしいです。だから、天国への階段と言うのですが、プルサの村人でも限られた者しか入れないらしいです」
……あそこで入浴したのバレたら滅茶苦茶怒られそうだな。
「それはそうと、もう帰られるので?」
「俺にも自分の島ってのがありまして、そこで人を待たせているんですよ。俺の島、すんごい住みやすい場所なんで」
「そうですか……。皆で見送らせていただく前に、別れの宴会でもしましょうか」
「いや、そいつは良いです。あんまり別れは好きじゃないんで」
そう言って、俺は軽く挨拶を済ますと、屯所を後にして宿屋に向かう。
すると、宿屋の主人が恐縮した顔をする。
「いやぁユウヘイ様、こりゃどうも。あんなに代金を頂きまして」
「別に大丈夫ですよ。そんな使いませんから」
「なので、あのお金は皆で今後何かあった時の為の共益金という形にすることにしました。いやぁ、本当にありがとうございます」
それを聞いて、俺はアレックスを連れて港に向かおうとすると、
「あ、ちょっと待って!」
と、主人が呼び止める。
「良ければ、あのお金の代わりにこの子を引き取って貰えませんか?」
そう言って、主人はメルナを差し出す。
「え、いやそんなつもりのお金では……」
「いや、彼女は確かにこの店の者ですが、先ほど話をしていたら、貴方についていきたいと申しておりまして。何でも、酋長からそう言われたと」
「酋長が……?」
どうやら、酋長から後継者を連れて来たのならば、一族の代表として後継者に従えと言われたらしい。
「自分はこの子の母親と知り合いだという事で働かせていましたが、彼女がそう言われたというならば、どうこういうつもりはありません」
主人の言葉に、メルナも頭を下げる。
「よろしくお願いします」
あぁ、弱ったな。
俺は頭を掻きながらも、彼女を受け入れることにした。
身の回りのことはヘレンと同じ、もしくはそれ以上に出来るし。問題はあの二人が怖いというだけだが、別に子供だから怒らないだろう。
「それじゃあ、行くか」
俺はメルナを連れて島に戻ることにした。
島へと戻ると、島は相変わらず平穏な感じ。
「あー、久しぶりの我が家だな」
「グル!!」
島に降り立ち家へと向かうと、その途中で懐かしい声が聞こえてくる。
「だからヘレン! こっちは私の畑! あなたの畑はそっち! あと勝手に水使わないでよ!」
「……そうやって旦那様の領地を勝手に扱うのはいかがなものかしら?」
「そういことじゃないってのよぉっ!!」
相変わらずの感じらしい。
そう言ってメルナを見ると、
「これが、御主人様の御屋敷ですか?」
と、興味深そう。
「そうだよ。ほら、俺の家族にも挨拶しよう」
と、メルナの手を引いていく。
「おーい、二人ともーっ!!」
そう言うと、二人は争いをピタッと止めてこちらを見る。
「ダーリンッ!!」
「旦那様!!」
そう言ってこっちに寄ってきた瞬間だ。
「どうも、お世話になります。メルナです」
と、彼女の姿を見た瞬間、二人の動きが止まる。
「こ、こどもぉっ?」
「……お、幼い子が、何故?」
「あー、こいつ? 俺が引き取ることになったから」
その瞬間、二人が崩れ落ち泣き始める。
「し、島から一ヵ月以上も居なくなったかと思ったら、何故に、何故にダーリン!! 他所で子供作る、もしくは養子を貰う為に居なくなってたのぉ!? 私と作れば良いのにっ!!」
「……だ、旦那様がまさか……、そ、そのような事をしていたなんて」
「いや、ちげえから」
俺はとりあえず誤解を解くことにした。
それから、島に戻って一ヵ月が経った。
俺は元の生活に戻り、ノンビリと暮らしている。
最初はメルナが馴染めるか心配だったが、彼女は既に馴染むというか、二人と一匹を手なづけている。
「ほらアリスさん、その塩はこちらの瓶で保管場所はあそこです」
「あ、ごめんごめん」
「ヘレンさん、畑に行くのは良いですけど、きちんと泥を払ってから家に入って下さいね」
「……申し訳ない」
「アレックス、ご飯だよー。今日は魚とキノコのソテー」
「ガルルル♪」
アレックスは可愛いからよしとして、子供に管理される大人ってのもどうなんだ?
そんでもって、メルナが来た事もあって四人で同じベッドは不味いという提案から、増改築をしようという話になったのだが。
「えーっ!! ダーリンそれはないよ!! 私と寝たくないってこと!?」
寝たくねえに決まってんだろ。
お前気が付いたら人の服むしり取って、馬乗りしようとするじゃねーか。
「……私も、夫婦なら同じベッドに寝るべきだと思います」
君もあれだろ?
言うて俺の事どうこうより、君がいつも無理やりベッドに押し入ってきているだけじゃないか。
そんでもって、気が付いたら川の字の寝ることになって、互いを牽制し合って夜明けぐらいまでバトルしてるじゃんか。
だから俺は毎日アレックスと一緒に寝る事になってんだぞ。
「自分は、御主人様がそうしたいというなら、そうするべきだと思います」
……メルナ、お前は本当に物分かりが良いなぁ。
結局、メルナの言葉を盾に、俺は増改築するぞ!ってことで押し切った。
※続きは8/30の12時に投稿予定です。
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