第35話 お前は何て言うか別だからな

 家を建てるには建築の材料が必要だ。当たり前のことだが。


 が、島で木材など限られているので、必要な部分は畑を拓く為に伐採した木材と今の家に使っているで補い、そして他は石材を使うスタイル。


 ただ、ちゃんと通気性も確保しないといけないので、壁は全部漆喰とかで塗り固め、なるべく多く窓も用意する。


 そんな改築作業の最中、ズグコフ商会を通して、乳牛を貰うことになった。


「え、貰ってきた?」


「うん、何かいつもジャガイモ取引やレストランで儲けさせて貰ってるから、ってズグコフさんがくれたの。あそこのレストランだと、随分人気メニューになってるみたいね」


 おぉ、本場イギリス人が聞いたら泣いて喜びそうだな。


「それなら、島の財産にすればいいじゃないか」


「酋長が、牛を飼ったことなんて皆無いから、ダーリンが飼うべきなんじゃないか、って」


 ……なるほど、まぁ客観的に見れば良い判断だと思う。


 そんな訳で、ジャージー種っぽい乳牛が二頭手に入った。


 名前はアスカとヘイアンにした。


 特に他意はないけど。でもこれでチーズやバターが自家製できるな。


 そんな増えた牛の為に牛舎も作り、改築の邸宅は完成した。


「おー、良く出来た」


 技術指南書で見た通り、ちょっとした金持ちが作りそうな洋館が三日ほどできた。


 二階建て、木造+石材建築。


 個人部屋に、食堂、応接間、書斎、キッチン。


 あと、これを機会に風呂もトイレも屋内に収納。


 うーん、完璧。


 そして、出張費やらで余っていたお金で、調度品を揃えることにする。


「すごぉい!! 実家なんて目じゃないねダーリン!!」


 そりゃお前の家、元は崖に建ってたしな。


「……なぜベッドがそれぞれの部屋にあるのですか?」


 不満点をわざわざ述べるのは辞めて欲しい。


 きちんと君の専用農具小屋も作ったから許して。


「キッチンがとても広くなりました」


 メルナ、君はよく分かってる。


 それは君の為に全部作ったものだ。


 俺、ロリコンじゃないけど。


「ガルルル♪」


 そうだな、お前が可愛いから全て許す。


 ちゃんと専用の小屋を気に入ってくれたんだなぁ。


 なんたって、藁も敷いてあって寝やすいし、水呑場に砂遊び場も作ったからな。


 そんでもって晩飯。


 今日の夕飯はパンと茹でたジャガイモに、玉葱とニンジンのスープ。

 それと野兎の香草焼きと刺身盛り合わせ。


 ついでに酒も買った。


 この世界でいうワインだ。


 ヤシ酒は大量に流通しているが、ワインはかなり希少らしい。


「新築祝いおめでとう!」


「「「おめでとうっ!!」」」


 そうして宴会。


 新しい家の香りと共に、どんちゃん騒ぎ。


 そうして酒も料理も他愛のない話で消え、お開きの後に俺は二階の自室へと向かう。


 部屋の広さは大体十二畳。


 こんくらいあれば十分だと思ったからだ。


 中にはベッドに衣装棚と物置棚。


 それと、机に椅子。


「ふぃー、気分いいな」


 酒に酔ったせいか、俺はベッドの上で船を漕ぎ出す。


「……やっぱり、一人で寝れるって幸せだなぁ」


 窓の外から聞こえるさざ波の音。


 まだ、階下ではアリスとヘレンが何か話し合っているが、それもここからだと聞こえない。


「……ふぁあああ」


 大きく欠伸すると、俺はそのまま眠りに落ちた。


 ……ガチャリ。


 ん……?


 誰だろうか?


 扉を開ける音がする。


「……誰だぁ?」


 そう言って起き上がろうとすると、口を塞がれる。


「しぃー……」


 メルナだ。


 一体、何のようだろうか。


「御主人様、お休みのところすみません」


 そう言うと、スッと布団に入ってくる。


 いや、何で?


「酋長様からの申し伝えがございまして……。シラヌイ様の後継者との子供を身籠って来いと言われまして」


「え、何故に? それが分からない」


「その……、何でも言い伝えによりますと、シラヌイ様は今度その後継者が男だったのなら、その男の子がプルサの王になると。言い伝え、つまりは我が村、我が部族の掟です」


 いや、そんな掟は聞いて無いから、俺は信じない。


 と、その時だぁ。


「待ちなさぁいっ!!!」


 と、アリスが叫び、ヘレンを連れて部屋に入って来る。


「ったく!! 人が気持ち良く寝ている隙にこんな事してるなんてっ!!」


「……油断ならない子」


 二人の連携プレーが見れるのは始めてかもしれない。


 ともかく、助かった。


 と、思ったのだが、そうでもない。


「そもそも、ダーリンの正妻は私で、ヘレンは第二夫人で、メルナはただの養子みたいなもんでしょうがっ!」


「……押し掛け女房が何を言うかと思えば。まぁ、最後の項については同意しますけど」


「養子では無くて、自分はきちんと村の掟を守るべく遣わされた従者です」


「だからってその従者が何で人の旦那のベットにそんな姿で潜りこんでるのよぉっ!」


「……全く持って同意ね」


 え? そんな姿?


 見てみたら、物凄いスケスケなネグリジェやんか。


 そいつぁ不味いぜ。


 ……俺はロリコンじゃないけど。


 三人がそう言ってギャアギャアと喧嘩を始めたので、俺は気配を消して家から出ると、アレックスの小屋に向かう。


「おーい、アレックス」


「……グ、ル?」


「あ、寝てたか。ちょっと失礼するよ」


 寝ぼけ眼のアレックスの隣へと行くと、そのまま前足を枕に横たわる。


「はぁー、あいつら本当に懲りないよなぁ」


「……グル」


「いや、お前は何て言うか別だからな。これからも宜しくなぁ」


 そう言って、顎を擦る。


 アレックスが一番好きな場所は、顎。


 ここを撫でなられたり、擦られるのが好きなようだ。


「グルル♪」


「良い子良い子。……それじゃ、おやすみ」


 そう言って、俺は深い眠りに落ちた。


※続きは8/31の12時に投稿予定です。

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