第32話 で、俺は結局プルサへ入る事はできるの?

 プルサへの道は、鉱山となっている山々を横目に高原道を歩いてゆく。


 街中は樫のような広葉樹が目立ったが、この道を歩いていくと次第に白樺・カラマツの森にただ広い草原が広がるという感じだ。


 気候・風土的に言うなら長野県の蓼科高原に似ている、と技術指南書にはある。


 歩いて来た道を少し外れて、開けた土地から街の方へと振り返ると、爽やかな風と日に照らされた市街地が見える。


 港の船舶、軍用の砲艦の先にある海は、雲が覆い、その隙間から日光が差している。


「……綺麗だなぁ」


「そろそろお昼にしましょうか」


 そう言って、メルナは背負っていたリュックから荷物を取り出す。


 昼ご飯を食べつつ、彼女から色々な話をしていたが、肝心の話題になるとトーンが落ちた。


「で、俺は結局プルサへ入る事はできるの?」


「どうですかねぇ……。気に入られれば、多分」


「そういうもんなのか?」


「正直な所、村の酋長がどう言うかだと思います」


「ふーん、なるほどねぇ」


 まぁ話を聞いていた感じだと、そういう村なのは納得いく。


「で、その酋長がどう言うか、ってのは、例えば?」


「そ、そうですねえ。酋長は人相でその人間が分かるといいますから」


 何か日本昔話とかで聞くような人選基準じゃねーか?


 一抹の不安はあるのだが、気に入られることを祈ろう。


 そんでもって、食事を終えてから道へと戻る。


 次第に勾配が高くなり、道も細くなっていく。


 そして、道らしい道から登山道の入り口のように、轍の道が姿を現す。


 先には鬱蒼と茂る白樺とカラマツの森。


 そんな道を日の沈むまでの間歩いていると、出た場所は沢の広がる河原。


「とりあえず、ここで野宿するか」


 そう言うと、俺は指南書でサバイバル術を調べると、二人ほどで寝れるテントを張る。


「とりあえず、食事にするか」


「畏まりました」


 メルナは素早く食事の材料をパパッと取り出す。


 魚の干物、乾燥ニンジン、買ったばかりのキャベツ。

 そして、バジルといった香草と塩。


 沢から水を汲むと、中に消石灰の粉を落としてから煮沸し、材料を鍋で煮込む。


 ちょっとしたシチューの出来上がり。


 それと堅パンを組み合わせで食べる。


 うん、煮汁に浸してからなら十分美味しい。


 焚火を前にして、俺はずっと気になっている事に触れる。


「そういやさぁ、メルナ」


「なんでしょうか?」


「お前、その眼帯というか目隠しは何なの?」


「これですか? ……色々と理由がありまして」


「理由?」


「な、内緒ってことで」


 恥ずかしがるように顔を背けるメルナ。


 こいつ可愛いなぁ。

 俺はロリコンじゃないけど。


 でも、一体どんな秘密なのかは気になる。

 

 翌朝、日の出と共に出発した。


 沢の河原を抜け、再び勾配のある道を昇っていくこと四時間ほど。


「あれが、私の村。プルサです」


 と、森の開けた谷から見える集落をメルナは指差す。


 山に囲まれた谷間の盆地に、開拓された村のようで、山の麓には切り拓かれた場所に、牛や豚といった牧場が見える。


 面白いのは、住宅は木をそのまま活かしたものであるということ。


 一本の木を中心に、その根元へ家を建てる方式らしい。


「なので、あそことあそこが家で、あっちは酋長の家です」


 牧場を囲う木々を指差し、彼女はそう説明する。


 目ら凝らしてみると、確かに木の根元に建造物が見える。


「へえ、こりゃすごい」


 そう呟いた時、俺は背後に誰かの鋭い視線を感じて振り返る。


「……っ!?」


 だが、振り返ってもただの森。


 風がそこを通り抜けていくだけだ。


「どうしました?」


「い、いやなんか誰かが背後に居たような……?」


「いませんけど?」


 メルナも見てみるが、確かに人は居ない。


 顔を出したのは、リスのような小動物くらいだ。


「勘違いじゃありませんか?」


「……いや、そうじゃなかったような」


 一抹の不安を覚えつつ、動き出そうとした時だ。


「動くなっ!!!」


 と、女の声。


「……御主人様ですか?」


「いや、そうじゃないな」


 すると、目の前に広がる森から擬態していた戦士が数十人ほど現れる。


 一同は仮面を被り、槍を持ってこちらを威嚇してくる。


「貴様、このプルサに何のようだ!」


 何のようだ、と言われてもただ観光に来ただけとしか言えないのだが……。


「貴様この村の人間じゃないだろう。お前らが悪さするせいで、センティパーダ様もお怒りなのだっ!」


 センティパーダ?


 あぁ、百足の事か。


「いや、俺は……」


 そう口を開こうとした時、メルナが眼帯を取る。


「お待ち下さい。私はメルナです! この人を、客人として招待したのは私ですっ! 先ずは酋長に会わせて下さい!」


 眼帯を取った姿を見て、俺は驚いた。


 彼女の片眼は、猫の目のように人の物とは違う。


 瞳孔から瞳の色まで。


「メルナじゃないか……っ!」


 そんな彼女を見て、一人が仮面を取る。


 って、よく見たらこの人も目が猫みたいだ。


 どうやら、この部族はみんな猫の目をしているらしい。


「アン様!」


 どうやら知り合いらしい。


 メルナは彼女に抱き着く。


 そして、


「この人はタナカユウヘイさん。さっきアンさんが言っていたセンティパーダを鎮めた方です」


 その言葉を聞いて、アンは俺の付けているペンダントを見る。


「つ、土のペンダントを持っているとは……。まさか、予言は真だったのか?」


 話が見えないが、敵対的な空気ではなくなった。



※続きは8/28の12時に投稿予定です。


これからは作者の仕事の都合により1日1話更新が基本となります。よろしくお願いいたします。

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