第24話 自由って最高だなっ!

「それで、お前は良いと思ってるのか?」


「……どういうことだ、島民?」


 俺の言葉に、タンヂはジロリとこちらを見る。


「俺には、こんな世界はおかしい、ってお前が思ってるような口ぶりだったからさ」


「知ったような口を抜かすな。私がどういう気持ちで仕事をしてきたかも知らずに!」


 そう苛立ったように返すと、タンヂは室内にあったサーベルを投げ渡す。


「私を倒せたならば、ヘレンを返そう。それでどうだ?」


「……仕方ねえな」


 鳩尾に一発、峰打ちすれば良いだろう。


 サーベルを抜いて構えると、彼は何故か苦しそうな顔をしている。


「……馬鹿だな、貴様は。どういう結果になるとも知らずに」


「なに?」


 と、言われた瞬間、俺の体が動かなくなった。


「それはギミックソードといってな、持った物に特定の魔法が掛る仕組みになってるのだ。因みに、それは持った者を石化する。安心しろ、本当に石になったりはしない」


 喋れないし動けない、出来るのは瞬きと呼吸くらい。


「運べ」


 そうタンヂが言うと、中へとズカズカと兵が入って来る。


 どうやら、最初からこれが目的だったのか。


 そして、そこへポワトゥー執政が現れた。


「首尾よくいったな、タンヂ君。礼を言おう」


「いえ、これも国王殿下に仕える者の役目」


 あの居丈高な感じとは違い、ポワトゥー執政を恐れているのか、言葉も態度も固い。


「それじゃ、約束通り君のフィアンセとあの小うるさい娘は君に返してやろう。良かったな、賊の妻として売春宿送りにならなかっただけありがたく思え」


「……はい」


 俺と引き換えに、ヘレンの助命をしようとしていたのか。

 ……少し見直しはした。


 夜明け。

 俺はこうしてポワトゥー執政に連行された。


☆☆☆☆☆☆


 一方その頃。


 解放されたヘレンとアリスだったが、ヘレンはタンヂを殴り飛ばしていた。


「この卑怯者!! 恥を知ったらどうなのよ!!」


「……ぐっ」


 壁際に押し込められ、シャツの襟を掴まれ何度も壁に頭を打ち付けられる。


「ヘ、ヘレン! そんな事よりダーリンを助けないと!!」


 そのアリスの言葉に、ヘレンも興奮状態から次第に冷静へなる。


「仕方なかった……。君とそこの女性の命と引き換えにと言われたのだ。……選択の余地はあるまい」


 タンヂは、彼なりの苦労を吐露する。


 が、それはヘレンに睨まれる。


「だからって、こんなのあんまりじゃないの!」


 彼女の叫びに、タンヂは後ろめたそうに顔を埋める。


 重い空気が漂う中、アリスが口を開く。


「なんとか、ダーリンを奪回できる方法はないかしら?」


 彼女に思い浮かんだでいたのは、連行された時の光景。


 石のように動かず、返事することもないまま牢馬車に入れられた雄平の姿だ。


「……相手を襲って倒すしか」


 ヘレンは目をギラつかせ、腰からダガーを取り出す。


「そ、そんなの幾ら何でも私達だけじゃ無理だって!」


 一方アリスは、結構冷静に状況は見れている。


 そんな押し問答をする二人を見て、タンヂは自分の情けなさが身に染みていた。


 タンヂにとって、ヘレンは大事な存在だ。


 子供の頃、ナヨナヨしているということで虐められていた子供時代の自分を、随分助けてくれた幼馴染みたいなものだからだ。


 それが切っ掛けで両家の親同士が仲良くなり、婚約者になっていた。


 彼女は全くそれを意に介していなかったが。


 だからこそ、その為にも頑張ろうと奮起して早何年過ぎたろうか。


「……私は一体何をしているのだ」


 そのポツリと呟いた言葉は、二人の耳に届いてはいない。


「……そうだ!!」


 そんな中、ヘレンはある事を思いつく。


「あの子が居るでしょうが!!」


「あの子……、って、ちょっと待ってよぉっ!?」


 そう言って飛び出す二人の背中が遠ざかるのを見つめたまま、タンヂは頭を抱えた。


「……どうするべきなのだ」


 そんな感傷に長く浸っていると、ある客人が訪れたことを従者が告げる。


「若様! 若様に至急お会いしたとの人が……」


「なんだ、こんな時に!」


「それが、王国からの使者、ということでして……」


 タンヂは眉を顰める。


――王国からの使者? 一体こんな時間に、誰だ?


「分かった、通せ」


それを聞いて、従者は部屋にある人物を通す。


相手の顔を見た時、タンヂは驚愕した。


「あ、貴方は……っ!?」


☆☆☆☆☆☆


 暗い鉱山の中、魔法のカンテラに照らされ、坑道を進む。


 俺は揺れる場所の中で、魔法拘束具で縛られたまま。


 そして、ある場所で俺は強引に降ろされる。


 鉱山のどん詰まり。

 そんでもって滅茶苦茶熱いし、何だか明るい。


 それは、煮えたぎる溶岩が躍る噴火口。


 それを前にして、執政はある指示をしてきた。


「そのまま、そこにある板へ上がれ」


 大人一人が歩ける程度の幅の板が、噴火口の上にかけられる。


 ……どう見ても、この先の下は溶岩なんだが?

 その上の板を歩くとか、よく海賊映画とかで見るやつだ。


 溶岩の中に落ちろっていうやつじゃね?


「君がいると、私の計画にも色々と支障が出てしまうのだ。申し訳ないが、ここで頭痛の種は取り除いておきたい。ここは幸い海じゃないから、ニヨルドも来れないしな!! 英雄だか何だか知らないが、根源を絶てば貴様なんざただの人だ」


 ……まぁ、そりゃそうだ。


 そんでもって、俺の後ろにはライフルを構える兵士が多数いる。


 撃たれても死ぬし、前へ進んでも丸焦げになって死ぬ。


 万事窮す!!


 と、思った時だ、馬車の方に居た兵が慌ててやってくる。


「し、執政閣下!!」


「何だ貴様ら騒々しい!!」


「な、何か化け物がこちらに向かって!!」


「ば、化け物? ニヨルドも来れない地上だと言うのに?」


 そうポワトゥーが口にした時だ、アレックスが彼らの目の前に現れる。


 なるほど、確かにワニなら陸上でだってこれる。


 例え鉱山の中であろうと。


「ダーリン無事!?」


「……旦那様っ!」


 と、その連れの二人。


 ヘレンは素早く俺の傍に来ると、拘束具を外してくれる。


「あー、自由って最高だなっ!」


 俺は思わずヘレンに抱き着くと、彼女も腕を背中に回してガシッと掴む。


「……良かったです、ご無事で」


「お陰様でな」


 余韻はさておき、アレックスの頭へとよじ登ると、俺はポワトゥーに指差す。


「悪いが、形勢逆転だな」


 アレックスへ向けて指を鳴らす。

 すると、アレックスは大きく口を開いて咆哮を上げる。


「す、すんげえ怪物!!」


「こんなの無理!」


 兵士はその姿を見ただけで、銃を捨てて逃げ去る。


 ……随分弱い兵士だな。


「こ、こら!! 貴様ら戦わないか!!」


 が、そういった直後、アレックスが目と鼻の先に顔を近づけているのを見て、体を震わす。


「や、やめろぉ!」

 

 そう背中を見せて逃げようとした瞬間、


「アレックス、あれは餌だから食っていいぞ」


 と、告げる。


 主人の言葉に忠実なペットは、一口でポワトゥーを呑み込んだ。


「じゃあ、地上に帰るか。後はそっから考えよう」


「「はーい!」」


 遠足の引率よろしく、俺は二人と一匹と共に、鉱山を出ることにした。


※続きは8/23の21時に投稿予定です。

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