第25話 こいつが本当の小物悪党か
俺は鉱山から戻ると、ポワトゥーをアレックスから吐き出させた。
水をぶっかけて消化液やら汚物を洗い流してやると、ただの中年太りしたオッサンだ。
服は胃液で溶けてしまったのか、もう下着一丁だ。
「か、顔や腕がヒリヒリする……」
そう呟くオッサンに、ヘレンは目の前に剣を突き刺す。
「……それで、覚悟はできているのだろうな?」
「ヒィッ!!」
「……私だけならともかく、旦那様に与えた屈辱を晴らすのは妻の役目だ」
その言葉に、外野も賛同する。
「そうだそうだ!! ヘレンやっちゃえ!!」
「グルルル!!!」
アリスとアレックスも、彼女の一押しを待っている感じだ。
が、するとポワトゥーはやけに高圧的な態度に出る。
「き、貴様ら一国の執政に向かってその態度はなんだ!! 貴様らをそのまま死刑にもできるんだぞ!!」
それを聞いて、ヘレンは顔をグイッと寄せる。
「……それならそうと、今すぐここでやってみればいいじゃない。少なくとも、ここにあんたの味方なんて居ないし、事故ってことにしてアレックスの餌にしてやってもいいのよ?」
ヘレンの言葉に、アレックスはギラリと光る歯を見せる。
素晴らしい連携プレーだ。
すると、今度は命乞いタイムに入る。
「ゆ、許してくれ! これも王室財政の為なんだ!! 今の王室の収入を支えているのは私の金庫!! これ以上儲けを失えば、私だけじゃなくて王室まで傾くんじゃ!! だから許してくれえ」
会社で言えば、経理部長の立場ということなのだろう。
……中々しんどそうな立場ではある。
そんな事を考えてる中、他の二人と一匹は精神的に彼を追い詰める。
「……ゆっくり消化されて死ぬのと、気絶したまま消化されるのとどっちがいい?」
「わぁヘレンちゃん残酷♪」
「グルルル♪」
それを聞いて、青ざめた顔をしてへたり込むポワトゥー。
が、それを見ていて、俺も少し可哀想には思えてきた。
「おい、二人と一匹」
俺の言葉に、皆がこっちを見る。
「もうそこら辺にして、解放してやるってのはどうだ?」
その言葉に、ポワトゥーには安堵の表情が。
他には不満の顔だ。
「……な、何です旦那様? 許していいのですか?」
「そ、そうだよダーリン! こいつ悪いやつじゃん!!」
「グルルルッ!!!」
それを聞いて、俺は溜息をつく。
「経過はどうであれ、結果として俺は無事だ。……だから条件として、俺らに構うな、ということで逃がしてやろう」
俺の提案に、ヘレンもアリスも、アレックスも静かになる。
「……旦那様の決定ならば、妻としては従います」
「わ、私もダーリンがそう言うなら」
「グル……」
アレックス、良い餌なんだろうが、ごめんな。
「ほら、もういいよ。その代わり、これ以上俺達に関わるな」
そういって、ポワトゥーを起き上がらせると、彼は涙を浮かべて礼を言う。
「君は素晴らしい男だ!!! 感謝する!! 必ず約束は守ろう!!」
「なら良い事だ」
そう言った時だ、上空を大きな影が覆う。
見上げると、それはペンドラゴンだ。
ペンドラゴンは滑空を続けながら、次第に降下してくると、俺らの目の前に止まる。
そこから降りて来たのは、タンヂだった。
「執政閣下、ご無事でしたか」
……やっぱりこいつ小役人風情ってとこなのだろうか。
あの時と変わらない言葉遣いと態度に、俺はゲンナリする。
そんなタンヂを見るや否や、ポワトゥーは彼に駈け寄る。
「タンヂ君!! この悪党共をすぐに捕えろ!! こいつらは私を誘拐して脅迫したのだ!!」
その言葉に、俺も皆も固まった。
「「「えええ……」」」
「……ガル」
余りの身の代わりっぷりに、正直ドン引きだ。
こいつが本当の小物悪党か、と恐れ入る。
だが、その言葉にタンヂは力なく首を振る。
「申し訳ありませんが執政閣下、それは出来ぬ次第です」
……え、マジ?
どういうことタンヂ?
「何故だ!! 貴様まで私の命令を聞けぬというのか!!」
その問いに、タンヂは、
「国王陛下、如何処置なされますか」
と、ペンドラゴンの背中へ向けて声をかける。
そこから姿を見せたのは、チェザーレ王。
王の姿を見た途端、ポワトゥーは驚く。
「か、閣下!?」
「ポワトゥー、どうやら私はお前を少し買い被り過ぎていたようだ」
そう言うと、王は彼の前に丸められた長い長い羊皮紙を出す。
「貴様、私の民から集めた税を使い、様々な場所に自分専用の館や娼館を建設したり、または貴様の取り立てた連中は各地で横暴を働き肉欲に耽り、しかも自らの経営する場所では脱税に及び、おまけに我が父祖が苦労して蓄財した財産も浪費しているとのことだ。これは、その会計監査の報告書だ!!」
それを見て、ポワトゥーは惚ける。
「い、一体なんでしょうなぁ、これは? 見覚えない収支書でございますが」
「お前の印もサインもされている裏会計書だ。私には嘘の会計書を見せていたな?」
「……が」
王の追撃は続く。
「しかも、家臣同士による王の許可無き私闘は、我が国始まって以来禁止されてきたこと。今回はそれも犯しているではないか!!」
「そ、それは……」
「どういうことなのだ、ポワトゥー!!!!」
その一喝は、とんでもなく迫力があった。
これが王か、と納得する。
「……も、申し訳ございませぬ」
こうして、ポワトゥー執政は失脚することになった。
でも、一体どうしてそんな証拠が?
そして一体誰がそんなものを?
ちょっとの謎は残ったが、こうしてこの一件は落着した。
ポワトゥー執政の失脚。
それは突然の事だったこともあり、一定の期間は混乱をもたらした。
だが、それも彼の不正がどんどんと明るみになることによって収まりつつあった。
チェザーレ王は前に比べて政治に関心を持ち、自らが讒言により投獄することになった部下へ謝り、再登用することで権威を守った。
それでもって俺はというと……。
「ダーリン!! ほんとすごいすごい! 王様の騎士になるなんて!」
ポワトゥー執政に立ち向かった男として、正式に貴族の一員たる騎士に取り立てて貰うことになった。
しかも、盛大なパーティーまで開いて貰うことにもなった。
招かれた俺とアリスとヘレン、そしてアレックスは、王から直々の招待で宮殿にやってきた。
そこでは、ポワトゥー執政により失脚、蟄居、投獄されていた貴族達からの歓待を受けた。
「いやぁ! あなたは私の英雄だ騎士よ!」
「これからもこの国と王の為に尽くしてくれ!!」
貴族からの歓迎を受けた後、玉座を前にして、勲章を貰った。
「汝の功績を称え、ここに騎士称号と六級栄誉メダルを授与す」
それがどう凄いかは分からなかったが、居並ぶ貴族の盛大な拍手。
気分は結構いいものだ。
その日、夜は晩餐・舞踏会が行われ、これもまた盛大だった。
王室自前のオーケストラの演奏をバックに、皆が華麗に踊る。
「そこのワニ……。違った、バルバロスは、触っても怒らないやつかな?」
初老の紳士が、そうアレックスを見て指を差す。
それを聞いて、俺は大丈夫ですよ、と言ったのだが、
「ガルルルゥ!!!」
と、アレックスは威嚇する。
「ひぇっ!! し、失礼した!」
それを見て、俺はアレックスの頭を軽く叩く。
「こら! 一応人前なんだからそうやって威嚇するな!」
「グル……」
素直なのは、いいことだ。
※続きは8/24の12時に投稿予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます