第12話 神様ボーナスらしい

「ほら、アレックス。もう帰るぞ」


 敵が倒れた事を見届けると、俺はアレックスと島に帰ろうと思ったのだが。


「グル! グルル!」


 何やらアレックスが言っている。

 ん? シーサーペントを見ろって?


 俺は海面に浮いたシーサーペントを見ると、何故だか体が光っている。


「な、なんだ?」


 すると、シーサーペントの口から小さなペンダントが零れる。


 それをすくい上げると、コバルトブルーの色をしている。

 形も波を象っているようだ。


「なんだこれ」


 思わず指南書で調べてみる。


――蒼海のペンダントの一つ 波のペンダント。


「な、なんだそれ」


 更に調べると、この世界で言う所の勇者の証みたいなものらしい。

 伝説の怪物を倒すごとの神様ボーナスらしい。

 全部で十個あるのだとか。


 因みに今回手に入れたペンダントを身に付けていると、洪水や高潮といった水害に遭わなくなるらしい。


――もし一つでも手に入れたなら、全部挑戦してみよう!


 神様、なかなか面白いもん作るな……。


 そのペンダントを付けてみると、シーサーペントが身を起こす。


「う、うぉ! 生きてた!?」


 驚いたのだが、さっきのような凶暴さはまるでない。


 何だか目は丸くなっているし、犬みたいに舌を出してこっちを見てる。


「……これ、アレックスの時と同じか?」


 どうやら、俺のペット?になったらしい。


「あー、でもすまん。俺には一応こいつがいるんだよなぁ」


 そういってアレックスを紹介すると、ちょっと寂し気な顔をする。


 なんだこいつ、化け物なのに可愛いな。


「まぁ、俺はお前の事が嫌いとかではないから、また何かあった時に助けてくれよ」


「キュイ」


 そう鳴き声を出して頷くと、海へと消えていく。


「ふーん、ペンダントとねえ」


 俺はキラキラと光る波のペンダントを見た。


 そういや、何か大事な事を忘れてるな、と思いつつも島へと戻ると、


「ユウヘイさん、アリスはどこに?」


 と、言われて思い出した。


 まぁ宇宙までは飛んでないだろう。


 が、そうも言ってられないのが世の常だ。


「おーい、アリスー」


 俺はひたすらアレックスに跨り海を探索する。


 アリスが消えて丸三日。


 流石に酋長もその母も、島民も悲観的。


「あんな元気印のアリスは一体どこに……」


「とかいって別の島で生きてそうだけど」


「そこでまた漁場を失ってたりして」


 ……まぁ、彼女の名誉の為に言うとすれば、決して島民から心配されてないわけではない。


 とはいえ、こうも長い事見つからないとなると、本当に心配だ。


「アレックス、お前もアリスの匂いがあったら知らせてくれよ」


「……グル」


 遊び相手が居なくなったせいか、こいつだってあんまり元気がない。


 この三日は岩石か死んだマグロと遊ぶくらいだし。


 俺も寂しいと言えば寂しい。


 あの雑で一方的な夜這いが無くなるのは大変ありがたいが。


「ん? ありゃ島か?」


 しばらくしていると、何だか妙に建物が多い島が見える。


 近づけば近づくほど、それが中々立派な島だと分かる。


 俺が見て来た島といっても二つだけだが、その中でも群を抜いて大きさが違うし、建物の数も違う。


 停泊している帆船のサイズもかなり大きい。


 とりあえず、上陸してみよう。


 幾多の船が往来する中、俺はアレックスと共に浜辺へ上陸した。


 明らかにバカンス中の海水浴客から、奇異の目で見られる。


「アレックス」


「グル?」


「お前はちょっと沖の辺りで待っててくれ」


「……グルル」


 不満そうな感じだが、主人の命令に従って海へと戻る。


――ざぶんっ!!


 アレックスが海へと戻ったせいで、大きな波が作られる。


 それだけで、無邪気な子供は喜んでいる。


「……あれ商売になるかもな」


 屋内浴場かでアレックスに人工波を作らせる、というのもいいかもしれん。


 それはさておき、ここはどこだろうか。


 ふと周囲を見渡すと、ある看板が目に入る。


――ロンストン海上商業王国 首都 ロンストン島へようこそ!


 まぁ、この世界の文字は読めないから、指南書に訳して貰ったけど。


 これ、改めて昨日調べてみたらカメラ付きなのな。

 すんげえ便利。


 それはさておき、アリスはこのやたら栄えた島に居るのだろうか。


 そう思って海岸から街へと入ろうとすると、やけに騒がしい。


「決闘だってさ!」


「いやー、女戦士同士の決闘だと」


 へぇ、こんな近代的な感じの島でもそんなのがあるのか。


 ……まてよ。


 俺はすんごい嫌な予感がして、群衆に紛れて決闘の中心地へと向かう。


「ヘレン! 今度こそ私は負けないぞ!」


 すんげえ嫌な予感は的中した。

 ヘレンって、もしかしてアリスが負けた相手じゃないか?


 そう思い見てみると、あの時見た女だ。


 間違いない。

 アリスは再戦を挑んでいた。


「全く、懲りない奴だねあんたも。こっちは前に勝負がついたんだから、もう用は無いんだよ。それともあれか? あんた他にも何か賭けるっていうのかい?」


 ヘレンは鍛えた腕に力を込めて、槍を握っている。

 改めて見ると、身長は百七十五くらいだろうか。


 どうみても細身で柔そうな体をしているのだが、頬にある刀傷といい、歴戦の戦士感が半端ない。


「賭けるのは私の命よ!」


 一方、自称俺の嫁は何故だがいきり立っている。


「そんなもんで勝負すると思ってるのかい? 馬鹿馬鹿しい」


 あぁ、あいつまだまともな奴か。


 俺はちょっと安心したが、そうもいかない。


「我が島の漁場を取り返すのみ!」


 そうアリスは素手で戦いを挑む。


 が、見事ヘレンの裏拳一つで簡単に気絶した。


「よ、よえええ」


 思わず感動してしまう弱さ。

 そして、ヘレンはその後も容赦がない。


「戦での仕来りまで忘れて決闘を挑んできたんだ。死んでも悔いはないだろう」


 そう言って気絶した彼女に槍を翳そうとした。

 いや、殺す気ならヤバいだろ。


 思わず俺は群衆から抜け出てそれを止めに入る。


「お、おいおい男が何しに行ったんじゃ?」


「女戦士の決闘を止めに入るなんて……」


 周囲が危惧する中、俺はヘレンの前に立ちふさがる。


「……なんだお前は?」


「俺は田中雄平! 一応特技は農業だ!」


 とりあえず、冠が欲しいとこで、そう言ってみた。


「農業……? 貴様がそんな高等技術を持っているような人間とは思えんがな」


 すごい軽蔑の目で見られた。

 なにそれ、俺でもちょっと傷つく。


「うーん……、お前そういえばどこかで見た事あるな……」


 ヘレンはそういうと、考え込む。


「あーっ!! 貴様あの時に島であった!」


「そうだよ。一応アリスは俺の知り合いだからな。命だけは勘弁してやってくれ」



「なるほど。どうやらお前はこの世界の仕来りをよく理解していない未開人らしい」


「み、未開人……」


 昔の地球もこんな感じだったのかな、と思うと、今のグローバル社会は結構悪くないのかもしれない。


「この世界ではなぁ、我々女の戦士こそが最上級の地位を持つ。そしてだ、私はその中でもトップオブトップたる『聖戦士』なのだ。こいつは只の島で一番強いってだけの女だ」


「ほぉ」


「聖戦士とはなぁ、国家が雇う戦士であって、ただの島民戦士ではないのだ。私は聖戦士である以上、こいつの住む島の徴税や管理を任されていてなぁ」


「おい、アリス大丈夫か?」


「って!! 人の話を聞けこの無礼者がぁ!!」


「ん? あぁ、すまん。ちょっとこいつの看病が……」


「聖戦士を侮辱するとは……、許せん!!」


 そう言って、彼女は俺に剣を放り投げる。


「抜け!!」


 抜けって、剣を?


 どうやら決闘を申し込まれたらしい。


※続きは8/17の21時に投稿予定です。

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