第11話 皆の生活が豊かになるなら、良い事だ

 そして、丁度その日は商船がやってくる日だった。


 そこで酋長から提案があった。


「どうせなら、これを差し出してみてはどうだろうか」


 なるほど、普段はヤシのジュースとかそういうのがおもてなしだったので、今回はこれを出してみたいということだった。


 今日は商会の長が久々に来るということで、それに同伴して欲しいとも、


 いいかもしれない。

 上手く行けば、この食い物で金を払わせられる。


 商船とやらが来たのは昼過ぎであった。

 水平線に遠く見えた小さな粒が、ここに来るまでは結構時間を要するようだ。


「いやいや、ラボロフ酋長。今日もよろしく」


 沖合に碇を降ろすと、小舟に乗って商人がやってきた。

 小太りの派手な毛織物の服を着た男だ。

 

 名前はズグコフというらしい。

 なんでも、百の島を渡り商売をする海上商会ズグコフの長だとか。


「それにしても、島の風貌が随分変わりましたなぁ。それにみんな活気がある」


 ズグコフはそう髭を撫でて呟く。

 今までとは違う島の雰囲気を感じているらしい。


「長旅御苦労様です」


 そういって、商品の取引が始まる。


 ソウファ島から出した商品は魚貝類の乾燥品。

 そして鮮魚も。


 これは船内にある氷魔法が効いた部屋のおかげで、保存できるらしい。

 主に都市部向けだとか。


「うーむ、あんまり良い魚はないですなぁ」


「いやぁ、色々とありましてな」


 酋長も少しバツが悪そうだ。


「それではまぁ、衣類や鉄製品と交換ということで、これくらいでどうでしょう??」


 そういって、ズグコフは羊皮紙のメモを見せる。


「……随分とレートがこちらに不利なようだが?」


「申し訳ないが、今年からうちも事業拡大で顧客が増えたのですよ」


 それが意味するのは、断るなら別のところもあるからいいよ、という意味だ。


 うーん、どの世界でも含みのある物言いってのは受ける側には精神的な負担だろうな。


「わかりました、それで手をうちましょう」


 酋長、あっさり陥落。

 そりゃあんまり強気に出れる材料が今は無いもんね。


 そうして商談が終わった後の雑談で、ある料理が運ばれてきた。


 ズグコフも、流石にこれは見たことがないらしい。


「な、なんですかこれは?」


「いやぁ、これはうちに最近住んだこのユウヘイが作ったものです」


 紹介されたので、挨拶する。


「どうも、田中雄平って言います。それはフィッシュアンドチップスといって、イギリスの伝統的な料理ですね」


 ズグコフは耳慣れない単語に困惑している。


「ふぃっしゅ? ちっぷす? いぎりす?」


 見た目もイギリス人といやイギリス人っぽい人間がそんな顔をするって、結構シュールな光景ではあるな。


「まぁまぁ、味は保障します。食べてみてください」


 見慣れぬ食べ物に戸惑うズグコフだが、恐る恐る口にしてからその顔の変化は作った者としては感慨深いものだ。


「これは美味い!」


 どうだ!

 表情は崩さないように務めるが、内心ガッツポーズの連続。


「んー、これいい! 原料はなんだね!」


「バーラの白身とジャガイモという野菜を使ってます」


「!? バーラなのか、これは?」


 見た目が悪いから売れないとされていた魚が、実は美味しいって結構いい話じゃね。


 というか、こんなとこでブラック企業で働いていた時の、営業スキルが役に立つとはな。


 あんまり緊張もしないし、スラスラ言葉が出る。


「それじゃ、これからバーラの方も料理用に使えますよ。今ならこの料理のレシピも教えるので」


 俺の提案に、ズグコフも唸る。


「そうだな。私の商会の系列でレストランと酒場をやっている所がある。そこにこの料理を出すってのも良さそうだ」


 そんなわけで、小麦・ジャガイモ・バーラ魚を供給する、という契約を締結した。


 ついでに、この料理がレストランや酒場で出たら、その内の5%を貰うという契約も。


「商売上手だな。この若造は」


 そりゃそれで仕事してたしね。


 あー、小麦増産しないとな。

 ジャガイモもだ。

 魚も取らないとな。


 やらないといけない事は結構ある。


 序でに、自分で食べたい米作りも。


 俺が作ると小麦もそうだったが、米も上手く作れるらしい。


 試しに島民にも作って貰ったが、枯らした。


「いやー、やっぱりユウヘイさんじゃないと作れないんだなぁ」


 俺は農業の神様ではない。

 指南書のお陰ではあるのだが……。


 ……まぁ、いいか。

 なんか皆の生活が豊かになるなら、良い事だ。


 とりあえず出来たお米を炊いてみる。


 米を炊く土鍋は自分で作った。


 そんでもって土鍋炊飯。


 二時間ほどで炊きあがる。

 木炭炊飯だから、ガスみたいに調節できないので時間はかかる。


 さて、お味は?


 一口食べると程よい粘り気。

 コシ、甘さが丁度良い。


「へえ、ヒノヒカリって美味いんだなぁ」


 正直コシヒカリだのひとめぼれは何度でも食べてみたが、これは初めてだ。


 指南書でみてみると宮崎の品種らしい。


「ふーん、九州から西日本はこの品種が奨励品種なんだ」


 何だか米も奥深い世界があるようだ。

 

 とりあえず、明日からの作業の昼飯は握り飯にでもしよう。


 翌朝、アレックスと一緒に島の周囲をグルリとする。


 ついでに釣り糸を垂らしながら、ぼおーっとする。

 

 昼休憩のちょっとした楽しみだ。


「あー、海はどうしてこうも綺麗なのだろうか」


 エメラルドグリーンの海を見て、俺は感嘆する。


 そうしていると、何やら浜辺が騒がしい。


「シーサーペントが出たぞ!!」


 え、マジかよ?


 伝説の怪獣が居ると聞いて、俺もアレックスも浜辺へと行く。


 どうやらシーサーペントに襲われて漁船が難破したらしい。


「最近見ねえと思ってたが、また出てきやがったか」


 なんでも、三月に一回は姿を出して、漁船や商船を襲うのだという。

 そりゃ確かに迷惑極まりない化け物だ。


「こ、ここは本国に知らせて軍隊を呼ぶとか……」


「そんな暇ないぞ!」


 島民があわただしく騒いでいる。


 そこへ、アリスが腕を引っ張る。


「退治に行くわよ! ダーリン!」


 ……ほ、本気か?


 で、でもまぁ、これも島の平穏の為に必要か。


 漁船が難破したという場所に行くと、確かに木材片が浮いている。


「グルルル……」


 アレックスも何か察知したらしく唸り声を出す。


「お前が居るから、大丈夫だよなぁ?」


 そう思ってたら、目の前二十メートルに水柱があがる。


「な、なんだぁ!?」


 出てきたのは、頭がドラゴン、体が蛇という怪物。


「うわ……、マジかよ」


 体長はアレックスよりも五、六倍はある。

 頭部だけでも、俺の十倍といったとこか。


「グギュゥ……」

 

 相手の体躯を見て、アレックスも戦意を失ってしまっている。


「お、おいおい」


 思わず俺は苦笑する。


 と、そこへある者が横やりを入れる。

 ……アリスだ。


「よくも島の人を傷つけたわねーっ!!」


 猛々しく海上からジャンプして挑んだ瞬間、


――バシンッ!


 と、軽く尾びれで海の彼方に飛ばされた。


「えええ……、呆気なさすぎぃ……」


 瞬殺すぎて、本当に島一番の戦士なのかと疑ってしまうぞ。


 そして、シーサーペントはこちらを睨む。


 かつては船乗りに恐れられた伝説の生き物と戦うのだ。


 俺は銛を構えてジャンプする。


「でやああああああああああ!!!」


 シーサーペントの方は、口を大きく開いてこちらを待ち受ける。


 そのまま銛を奴の鼻に突き立てる。


「ギギャアアアアア!!」


 効果覿面か。

 シーサーペントは身悶えてしている。


 そして、俺はそのまま奴の口へとぶら下がると、勢いをつけて目にグーパンチ。


 声に鳴らない悲鳴だろう。

 怯んでそのまま海面に身体を横たえるシーサーペント。


「ふぃーっ! あぶねえあぶねえ」


 俺はアレックスの背中に飛び乗ると、額の汗を拭った。


※続きは8/17の12時に投稿予定です。


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