第8話 島版シムシティやることになるんだな


「え、マジかこれ」


 アリスに無理やり手を引かれた先の家には、ハート型のベッドがある。


 しかも海沿いで、海風が心地良い。

 恐らくここは島でも数少ない特等地だろう。


「これうちの島で夫婦になった人に送られるベッドなのよ!」


 いや、貧しい割にはお前らこういう工芸技術はあるのな。


「い、いいよ、俺は!」


 そう言って逃げようとするが、彼女の力も中々強い。


「だーめ♪ ほらほら一緒にきて!」


 そのまま無理やりベッドに倒される。

 いや、抵抗してるつもりだが、どうもいつものような力がでない。


「な、なんでだぁ?」


 体が極端に弱くなってる気がする。


「あー、ごめん♪ 今日飲んだお酒、ちょっと力を抑える薬草が混じってるの」


「そういうの早く言えよ!!」


 図られた。

 しかも、段々舌まで痺れてきた気がする。


「う、うまく、しゃべ、れ、にゃい」


「おーよく効いてる♪」


 アリスは嬉しそうに笑うと、服を放り投げるように脱いでしまう。


「お、おみゃえ! おがあさんど、が、泣くぞ!」


「え!? お母さんが泣いて喜ぶ!?」


「ひ、ひがう!」


「大丈夫、大丈夫! さっきうちのパパもママも泣いて喜んでたから!」


「ふぇ?」


「ほら、酋長ってうちのパパだから。その隣に居たのがママ」


 衝撃の事実。

 お前の父ちゃんあんな更けてんのか。


 しかもあんな存在感なかったおばちゃんが、お前の母ちゃんかよ!


 つうかアリス、お前いまめっちゃ体の隅々まで丸見えでヤバいんだが。


 そんな俺を見透かすたように、彼女は俺の横にサッと体を寄せる。


「まぁ私は六女だから、お姉ちゃんはみんな他所に結婚しちゃってね、島を継ぐ人が少なくなってるのよ。」


「ひ、ひるかしょんなの!」


「まぁまぁ♪」


 彼女はそういって俺の顎を撫でる。


 助けてやった恩とか覚えてるなら、もうちょっと優しくていいんじゃないか?


「助けて貰ったうえに、強いって最強よね。最強ダーリン♪」


 なんで俺の気持ちに被せてくる。


 そして、雰囲気が段々と怪しくなってくる。


 あぁ、何かアリスの口が近づいてくる。


 確かに彼女は美人だ。

 しかも体がエロい。


 いや、これはこれでいいんだが……。


 そう思った矢先。

 家の壁が破壊された。


「へあっ!?」


 アリスが驚いて飛び起きる。


 破壊主はアレックスだった。


「グルルルルルルルッ!!!!」


 すんげえ怒ってる。


 あ、もしかしてお前家に帰れないのを怒ってる?


「な、なんなのよバルバロス! いくら守護神だからって私とダーリンの結婚初夜まで邪魔してもらっちゃ困るのよ!」


「グギャアアアアッ!!!!」


 あ、やべえ。


 こいつ割とマジで怒ってるやつじゃね?


 急いで体を起こそうとするが、痺れてうまく動けない。


 と、その瞬間。


――パクリ。


 またアリスが呑み込まれた。


「ア、アフレクヒィ」


「グルル!」


「ひゃめなひゃい」


 目と目が合う。


 俺は上手く喋れないが。

 動くのもきついが、色々ジェスチャーする。


 すると、アレックスも渋々、といった様子で彼女を吐きだすと、今度は俺の事を咥える。


「ひぇ?」


 俺の驚きを無視して、そのまま海にダイブ。


 帰宅を始めてしまった。


「あーん!! ダーリン逃げるなぁ!!」


 アリスの叫び声が木霊して聞こえていた。


 ……あいつまた臭くなったのか。


 可哀想には思った。


 翌朝。

 俺は指南書の指示通りに解毒剤をつくり、なんとか回復した。


 そうして畑の野菜作りに精を出していると、アレックスが唸り声をあげだした。


「グルルル……ッ!」


「……まさか」


 嫌な予感がする。

 急いで家に戻ると、そこにはアリスが居た。

 

 始めて会った時と同じように、女戦士らしく槍に、水蜘蛛を身に付けて。


「あ、ダーリン!」


「お、お前なぁ!」


「いいのいいの。別にダーリンが新婚初夜に逃亡したことは水に流してあげるから」


「そうじゃねえよ! 痺れ薬の方が謝罪するべきだろ!」


「え、そうかな?」


「普通あんなもん旦那になるやつに盛るかよ!」


「いやー、あれで旦那を見つけたって村のおばさんから聞いたことがあって」


 なにそれこわい。


 あの島の女ってみんなそんな捕食動物みたいな連中なのかよ。


「それはそうとダーリン……」


 そう言うと、彼女は近寄り、俺の胸に手をそっと置く。


「ダーリンは私の島じゃなくて、この島で暮らしたいの?」


「そりゃ、できればこっちのが生活し慣れてるしな」


「あのね、あの後に酋長様と話したの。いきなり別の島に来たから島に戻ったんじゃないかって。だからね、そんなダーリンに提案があるの」


 いや、戻るもなにも、そもそもそれが根本の理由じゃないけどな。不可抗力もあったし。


 怒ったアレックスは怖いってのも分かった。


「だからね、通うってのはどうかな?」


「……は?」


 なにそれ、通勤ってこと?


「いやね、私もここで暮らすけど、ダーリンには島の為にもダーリンの知恵、貸して欲しいの。だから週に何回かは島に来て欲しいんだ」


「えぇ……」


「ここで食べた野菜を、島の人の為にも作って欲しいの。それで島を豊かにして欲しいのよ」


 確かに、あの島で漁業ができないというなら、結構生活は苦しいのではないだろうか。


 昨日酒を飲ませて貰った時も、何人かの壮年男子はそのことを愚痴っていた。


――アリスちゃんをしても負けてしまったとなれば、もう生活が厳しいなぁ。


――そうだなぁ。これで魚も食う分くらいでしか取れなくなっちまうしなぁ。


 現金収入になっていた魚が得られないのは辛い、という言葉だった。


 彼らは二週に一度、やってくる海上商人に魚を売って物々交換をしているのだ。


 良い漁場を奪われた以上、島の近くで取れる魚では生活が更に苦しくなると。


「……まぁ、それだったら助けてやらんでも」


「ほんと!? やったぁ!ダーリン最高!」


 あぁ、俺やっぱり島版シムシティやることになるんだな。


※続きは8/15の21時に投稿予定です。

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