第7話 アリス、良い夫を見つけたな
俺の住む所から、ソウファ島までの距離。
それはアレックスに乗れば十五分弱。
というか、アレックスが本気出したらめちゃくちゃ早いと分かった。
しかも、背中に乗せたアリスがスピードを出すのを嫌がれば嫌がるほど、アレックスは容赦なくスピードを出した。
こいつ、アリスのこと嫌いなんだな。
「……うぅ、吐きそう」
島を目前にして、スピードを落としてくれたが、アリスの顔色は青い。
「おいおい、大丈夫か?」
「もうだめダーリン……」
そのまま彼女は俺の膝元に転がり込む。
本当に顔色が悪そうだから、仕方ないか。
そして、俺は彼女を抱えて島に上陸した。
が、ソウファ島は本当に貧乏な島なんだ、というのを上陸して改めて知る。
まず海岸は入り江がなく岩だらけ。
磯釣りするにはいいだろうが、溶岩石だらけなのは転んだら痛そう。
そして、平地が殆どない。
海岸の目の前には、急峻な崖。
家はその岩肌を掘削して、そこに建てられていた。
崖からせり出してある家の群れは、中々壮観だが、正直怖い。
あとはヤシの木が、海外沿いにポツポツと。あとは崖の上に鬱蒼と茂っている。
「まるで御蔵島みたいだな」
あそこも確かこんな崖ばかりの土地だ。
違いは人が住んでいる場所だろう。
グロッキーなアリスを休ませてから、案内してもらうことにした。
「これが、お前の故郷?」
「そうよ、ダーリン」
「すんげえ場所だな、ここ?」
「だからダーリンに助けて欲しいのよ! お願いね! 今から酋長のとこいきましょ」
アレックスは違う場所のせいか、ノビノビと遊泳を楽しんでる。
……あいつなら水がありゃ、どこでも暮らせるかもな。
例え南極だろうと暮らしていそうだ。
酋長の家は、岩肌の家屋群の中でも、一番高台かつ丁寧に作られていた。
酋長に一通りアリスが事情を説明する。
漁業権を失ったこと、そして俺に助けられたこと。
そんでもって、俺がバルバロスをペットにしてること。
野菜を作れるということ。
俺と結婚するということ。
最後は全く納得いってないが。
すると、七十過ぎくらいの爺さんに手を握られた。
「まさかバルバロス様を従え、農業の技術もあって、しかも我が島で一番強いギリネーの夫となるとは、いやはや嬉しい限り」
「いや、別にアリスとは結婚するって決めた訳じゃ……」
「だからね酋長様! ダーリンとの家が欲しいの!」
「そうじゃな、一世帯持つならそれが良かろう」
「やったー!」
いやいや、話が飛びすぎだっての!
「いやだから結婚するとは……」
しかし、話を聞いてくれてない。
「我が島の古来からの掟としてな、女戦士と結婚する者は、その拳を受け止められる、という者でなければならない。いくらスモジュのヘレンに負けたとはいえ、これでもアリスは女戦士としては名が通った子なのじゃよ。かつてはシャチを一発で仕留めた事もあるしの」
え、それマジ?
それってかなり強くねーか?
あの細い体に一体どれだけ力があるっていうんだ。
あと、そんな異世界の掟は俺しらねーから。
「島の男では勝てる者もおらず、中々困っておったところじゃが、これで他所にやらんですむ。アリス、良い夫を見つけたな」
「はい! 酋長様!」
「おいおいおい! だから……」
が、反論しようとしたら、
またも遮られた。
「よーし! それじゃ村を挙げての若い夫婦の誕生を祝おう!」
酋長、何故かやたら張り切りだした。
村人が集まって俺とアリスの結婚だー、と騒ぐ中、俺は島を探索していた。
この島は海岸沿いこそ貧しく見えるが、崖から島の中心部に繋がる道を行けば、十分な森林資源がある。
「へぇ、ここ結構いい場所じゃんか」
ヤシの木だらけ、というわけじゃない。
きちんと湧き水もある。
なんか開拓した後もある。
どうやら、農業をしようとした、痕跡はあるのだ。
「でも、なんでこれ放棄したんだろ」
その疑問は、結婚祝いとかいう謎のパーティーで晴れた。
「どうもこの島は作物を作ろうにも、土が悪いみたいでな」
と、壮年の男。
その母ちゃんも口をそろえる。
「そうそう、どうしたって出来ないのよ。それに種だって高いしねえ」
「なるほどねえ」
俺はフンフン頷きながら、ヤシ酒を飲む。
一方、アリスといえば、
島の同い年くらいの子に自慢している。
「いいなー、アリスちゃん結婚か」
「いいな、いいな。ただでさえ男は皆十四になったら出稼ぎに他所行っちゃうのに」
どうやら、この島では男は殆ど出稼ぎらしい。
確かに、若い男はかなり数が少ない。
彼女を他所にやりたくない、という酋長の気持ちも分からんでもない。
そして、アリスは鼻高々だ。
「まぁねー! なんてった、私はこの島最強の女戦士なんだもの!」
すると、他の子は声を揃えていいなー、と連呼する。
「……でも、漁業権失ったんじゃ」
俺が今の島の窮乏さについて口にする。
「大丈夫、大丈夫。あんたが何とかしてくれるから」
なんかそう言われてしまう。
いや、こいつら本当に大丈夫か?
俺はどうしようもなくなって、その場を一回抜けることにした。
「アレックス!」
俺は海岸へと出ると、口笛を吹いた。
ものの十秒もしないうちに、アレックスは海から顔を出す。
「おー、そろそろ帰るぞ」
「グルル!」
なんだか嬉しそう。
そりゃそうか、こいつにとってはあの島が住処だもんな。
そんな時だ。
「待ってよダーリン!」
アリスがやってきた。
「今日はここで新婚初夜でしょ!」
……え、マジかよ。
俺は固まった。
※続きは8/15の12時に投稿予定です。
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