第6話 ダーリンってなんだ?

 胃液まみれで臭いので、シャワーに入って貰うことにした。


「ったく、乱暴なんだか素直なんだか」


 アレックスにおやつのトマトをあげながら、俺は愚痴る。


「グル」


「いやまぁ、お前は悪くないよ。あいつもいきなり怒り出したし」


 でも戦士だから、元々闘争心は強いのか。


 そうすると自然なのかもしれない。


「あ、そうだ。シャワーの水足りないかもな」


 俺はシャワータンクに、水が足りないことを思い出した。


 シャワールームの上に石で造ったタンクがあり、そこに水を入れておくことで、シャワーになる。


 ちなみに、水は雨水とか用水路から、汲んできたやつだ。


 家の外にあるシャワーへといくと、丁度まだ浴びてる所だった。


――まぁササッと済ませよ。


 そうして用水路から桶で水をすくい、タンクに流し込もうと思った時だ。


「あ、そういや着替えどうすっかな」


 めっちゃ臭くなった彼女の服が、目に入った。


 毛皮で作られた薄い服だが、彼女の手持ちはこれしかないだろう。


「洗濯もしないとな」


 そういって服に手をかけようとした時だ。


 石に躓いた。


「あっとっと、とぉ!」



 そのままシャワールームにダイブする。


「ひゃあああ!!」


 驚いた彼女がこちらを見ている。


 そして裸体を見えてしまった。

 褐色かと思っていたが、服を着ている所は真っ白。


 すごく白い。


 しかも尻とか太ももが鍛えているせいか、結構ムッチリしてる。


 あと、めっちゃ腹も割れてる。


「な、なにしにきたのよっ!!」


 胸と股を手で隠して、彼女は顔を赤くしている。


「あ、す、すまん!」


 そう言って直ぐに出ようと思った。


 が、その前に彼女の鉄拳が先だった。


「なにみてるのよ!」


 右手ストレートが出て来た瞬間、俺は咄嗟にそれを受け止めた。


「ぐ!」


「悪い! 悪かったって!」


 とりあえずアリスがヒートアップしてるのを、何とか宥めなければならない。


 が、彼女の反応は予想外だった。


「あ、あなた」


「ん?」


「強い、のね」


 何故か微妙なムードになった。

 なんで顔を赤くしてんの?


 え、なにこれ。

 このまま怒って暴れるとかじゃないの?


「わ、私の拳を受け止めた男は、あなたが始めて、よ……」


 そうして顔を背ける。


 いや、だからなんだこの空気。


「そ、そうか……。いや、悪かった。服を洗濯してやろうと思ったら、石に躓いちまってさ……」


「う、うん……」


 さっきまでの乱暴さの垣間見えてたのに、急にしおらしい感じなのは何なの?


「じゃ、じゃあそういうことだから! 着替えなら適当に家の中で見つけて!」


 俺はとりあえず逃げた。

 何か裏ありそうでこわいもん。


「いやー、アレックス……」


 俺の癒し、アレックスの元に戻る。

 砂浜に腹を見せて寝っ転がるアレックス。


「お、女ってわけわからねえよ」


「……グル?」


「お前、守護神なんだろ? こういうときってどうすりゃいいの?」


「グルグ、ル?」


「いやさ、アリスに殺されるかと思ったら、急に女っぽくなっちゃったの。なんで?」


「……グルゥ」


「そうだよな、分からねえよな」


 とりあえず気分を変えよう。

 指南書を開いて何か調べよう。

 

 だが、頭に浮かぶのはさっきの肢体だ。

 いい体だったな。


「……アホらし」


 その日はアレックスの腹を借りて、昼寝することに決めた。


「え、なにこれ?」


 家に帰ると、アリスが掃除してくれていた。

 確かに前より整理整頓されて、とても綺麗。


「あ、お帰りなさいダーリン!」


「……は?」


 意味が分からん。


 ダーリンってなんだ?


 説明を求めると、彼女は当たり前のような反応をする。


「だって、戦いに勝った男が我が夫になる、というのはソウファの掟じゃありませんか」


 いやまて、あれ別に戦いじゃないだろ。

 そもそも拳を受け止めただけじゃん。


「で、でも」


「でももヘチマも市民活動もあるかよ! 知らねえよそんなの!」


「シミンカツドウ? とは武術の技とかですか?」


「……はああああ」


 話が急展開すぎてついてけない。


 が、彼女の説明だとこうだ。


 女戦士になる人ってのは、強い女。

 そんな強い女を嫁にできるのは、島の王様とか貴族。


 それか、女戦士に武術で勝てる人。

 要するに女戦士より強い人。


 それが、彼女の生まれたソウファ島というかこの世界の掟らしい。


「これで私も島に帰って、結婚生活できる!」


「で、お前いくつなの?」


「数え年で十六」


 これが日本ならギリギリ犯罪ではないな。


 って、そんな話じゃねえ!


「そんなの俺の同意がない話だろうが!」


「でも守護神バルバロスをペットにしてて、私の拳を受け止められるって、強いじゃない! だからダーリンなのよ!」


「色々話がぶっ飛び過ぎなんだって!」


「だからね、ダーリン」


「話聞けよ、おい」


「私の島で、一緒に暮らして欲しいの」


「断る」


「なんでぇ!?」


「俺はここで暮らしたいの!」


「で、でもさぁ。ここだと生活不便じゃない?」


「自分で何とかするよ」


「えぇー」


「いやだからさも一緒に暮らすのが

当然みたいに言うなよ!」


「島を助けて欲しいのよ!」


「どういう意味だよ、それ」


「だってダーリン、野菜作るの上手でしょ?」


「そりゃ分からないけど」


「そんでもってバルバロスを従えるくらい強いでしょ?」


「……うーん?」


「だから、ダーリンに島へ来て欲しいのよ。島を豊かにして欲しいなって」


 理由と結論が全く一致してねーよ。

 でも、考えようによっては島版シムシティか。


 悪くない……、か?


「……お前と結婚なんてしないが、どうせ暇だし手伝うくらいだったら……」


「やったぁ! ダーリン最高!」


「だ、抱き着くなバカ!」


 頬を摺り寄せてくるアリスを引き剥がすが、彼女は遠慮なく甘えてくる。


 あーあ、こいつ助けなきゃよかった。


※続きは8/14の21時に投稿予定です。

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