第9話 とりあえず夕飯は自分で作らないと

 それから週に四日、俺はソウファ島へ行く事にした。


「週末は一緒に居るの!」


 と、いうのがアリスの主張だったからだ。


 先ずは農道整備。

 これは重要。


 島の中央部の畑に行けるよう、島民と協力して農道を作る。


 蛇行しながら岩を昇るという道を、つくることにした。


 とにかく岩を砕く為に石の鶴嘴を使い、道を砕いて成型していく。


 作業は上から俺一人で、下から島民グループでやることにした。


「いやー、アリスの旦那はすごいなぁ」


 俺の作業を見て、男衆にはやたら気に入られた。


 というか、やっぱり力の差があるのだろうか。


 既に俺の方が半分の工程を終えていたが、島民の方はまだ十メートルも進んでない。


「……これ俺一人でやった方が早いのかもな」


 その後、俺は指南書を使い、この掘削に酢を使うことにした。


 冷やした酢を岩にかければ、岩が砕きやすくなる。


 酢はナツメヤシの実を発酵させればできる。

 自分の島に居た時に、作った物を使うことにした。


 そして、二日ばかりで農道が完成した。


 粗削りではあるが、大人二人が通るには十分な道だ。


「ばんざーい!」


 島民はそれだけでもかなり喜んでくれた。


「これで湧き水も簡単に得られるね!」


 どうやら、今までは崖からチョロチョロと流れる水や、雨水を用いていたらしい。


 ……そりゃ、結構大変だ。


 とりあえず、これで作業道はできた。


 次に開墾をするとなるが……、これはどうするか考えた。


 指南書を見ると、開墾は「特難」とされていた。

 ……前は見落としてたな。


――むやみやたらに土地を開墾すると、自然バランスが乱れます。計画的に開墾しましょう。


 なるほど、これって結構難しいんだな。


 読み込んでみると、風土が大事なのだという。


 風の向き、直射日光量、水量、土質。


 生産性と風土は必ずしも合致しないので、だからこそ、風土を意識しましょう、と。


「ふぅむ、どういうこっちゃ?」


 それを見ながら、彼らの先祖が開拓したという土地を見る。


 なだらかな丘陵地に、畑が作られている。


 湧き水も近い。

 だが、この向きだと日光量は限られてくるだろう。


 ちょうど南向きではあるが、東に大きな岩山があるので、これだと一日中温かいわけではない。


「なるほど、風土ってそういうことか」


 要するに、土地の条件ってことだな。


 となると、どんな作物がいいだろうか。


「……とりあえず適当に植えっか」


 細かく悩んでもしゃーない。


 先ずは草刈りして、きちんとした耕作地にしないとな。


 今度は分担しないでみんなですることにした。


 昼頃になったら、みんなお昼を食べに家に戻り始める。


 そろそろ俺も昼にするかな、と思った時だ。


「ダーリン♪」


 あ、すんげえ嫌な予感がする。


 振り返ると、ヤシの葉に何かを包んだアリスが居た。


「な、なに?」

「お昼御飯持ってきたよー、一緒に食べよ!」

「つーかお前今まで何してたの?」

「え、ま、まぁ色々」


 そう差し出された手は、新しい傷があった。

 切り傷、すり傷。


 そっか、こいつもしかして……。


 断るのは、ちょっと無粋だ。


「わ、悪い。ありがとう」


 そう言って受け取って開いてみると、

 中にあったのはジャガイモと魚を混ぜた何か。


「……なにこれ?」

「え? 魚とダーリンが畑で作ったジャガイモ♪」


 どうみてもおぞましい、

 得体の知れない何かだ。


「私、料理始めてだったから……、見た目は悪いけど美味しいはずだよ!」

「……」


 料理センスないんだな。ははは。


 俺は黙ってそれを口にしたが、なんかすごいすっぱい。


 みるみる血の気が引いていく。


「な、なんか味が……」

「あ、それね! さっきダーリンがくれた酢ってやつ入れてみた!」


 酢を使うって、フィッシュアンドチップスか。

 いや、あれはそもそも揚げてるじゃねーか。


「……ん?」


 俺はその時閃いた。


 こいつの料理を食うより、自分で料理を想像しよう。


 そうだ、この島にフィッシュアンドチップスを広めよう。


 あれだってきちんと作れば、かなり美味い。


「すまない! やるべきことが分かった!」

「え、え? ダーリン、食事は?」

「そんなことよりこの島を豊かにするんだ!」


 俺はそう言って再び指南書を開く。


 魚はある。

 あとはジャガイモと油だ。


 油を手に入れるには何が良い?


 検索結果 獣脂、植物油脂。


 獣脂……?


――獣脂の方が料理を作るさいにコクがあるとして、

  中華料理に用いられる。原料は主に牛・豚。


「な、なるほど」


 とりあえず今は獣脂とかなんて手に入らないから、植物油脂で手をうとう。


 そうだ、ヤシがある。

 ヤシをコプラに加工して、ヤシ油にしよう。


 ふふふ、完璧だ。


 アリスの料理から逃れる為にも、まともな食材を確保せねば。


 俺の真意を知ってか知らずか、


「ダーリン……、島の為にあそこまで♪」


 と、なんかウットリしている。


 いや、お前まず料理の腕あげろ。


 ……とりあえずジャガイモ畑を一町は作りたい。


 よし、気合いれて畑つくるか。



 六時間後。


 できた。

 トラクターが無くてもなんとかなった。

 さすがにすんげえ疲れた。


「すごいすごい! ダーリンすごい!」


 べた褒めして抱き着いてくるアリス。


「いやー最初は力だけのやつかと思ったら、違うなぁ。石一つない畑だ」


「ほんと、いい旦那さん貰ったねえ」


 周囲のおじさんおばさんから褒められる。


 アリス鼻高々という感じ。

 俺は疲れてゲンナリ。


 とりあえず夕飯は自分で作らないと。


※続きは8/16の12時に投稿予定です。

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