第3話 なにこれ、超便利じゃん。

 技術指南書を開いてみて、畑やらの項目をずっと調べてみる。


 農業、開墾、畑作、稲作。

 色々な知識が頭に入ってくる。


「へえ、種って色々種類があるんだな」


 耐病性だったり。

 F1品種だったり。

 米のBLだったり。

 色々とあるらしい。


 すると、ある項目が気になる。


「え、これ手に入るの?」


 ヒノヒカリという米の品種を見ていると、

 どうやらカートに入れるというコマンドがある。


「マジか。金かからないのかな?」


 でも金の表記はない。

 まぁいいか。

 ポチっと押してみる。


 すると、目の前に種袋が落ちてきた。


「うぉ、めっちゃ便利!」


 中にはヒノヒカリの種籾が入っている。


「これいいな!」


 ついでに色々な野菜の種も頼む。


 ジャガイモ、ニンジン、玉葱、ナス。

 特にこれくらいの天候ならば、何でも育ちそうだ。


 気が付けば二十種類くらいの種が揃った。


 なにこれ、超便利じゃん。


「ま、いくら指南書があっても、材料なきゃ何もできないもんな」


 農耕用の鍬と鎌を作り、開拓を始めることにした。


 ジャングルに入り、木を切り倒す。

 何故か体は疲れないし、切り株を抜くのもシャベルで楽に出来てしまう。


 半日かけて、一反ほどの土地を整理した。

 一人で簡単に開拓できた。


「俺すげえな」


 周囲の雑草を抜き取り、土を耕す。

 下の土は黒土らしい。

 指南書によれば、黒土のが作物は良く育つらしい。


「じゃ、畝でも立てるか」


 土を持って、畝を作る。

 その一つ一つに野菜の種を撒いてゆく。


 あと残った土地は水田にでもしよう。


「そういえば、水どうすっかな」


 近くに水源がない。

 これでは米は作れない。


「水を探すか」


 指南書を開いて、水源の確保について調べてみる。

 土木工事の仕方や、掘削について出てくる。


 地下水、溜池造成、水路設置。

 色々手段はあるらしい。

 だが、水を見つける方法は見当たらない。


「つまり探せってことか」


 うーん、でもどうしたものか。

 どうするか悩んでいると、サイの角を丸くカールさせたような動物が居た。


「動物?」


 いや、待てよ。

 動物がこんなジャングルに居る。


 つまりは水源があるってことじゃね?


 休みがてらそのサイを見てみる。

 サイはこちらに気が付いているようで、警戒している。


 しばらくしたら、サイは鼻を鳴らしてジャングルを歩き始めた。


「つけてみるか」


 サイを追跡することにした。


 サイを追いかけて五分もしない内に、川に出た。


「おっ! あるじゃん!」


 思わず指を鳴らしてしまう。


「とりあえず木の枠で水路でも造ろうかな……あ?」


 そう思ってたら、さっきのサイが驚いて逃げていく。

 川縁から、何かが現れていた。


「……化け物?」


 両足にヒレが付いた巨大ワニだ。

 こちらをジロッと細い目で見てくる。


「モササウルスみたいな、って不味くねえか!?」

 

 急いで後退りして逃げようとする。

 が、それに気が付いたのか、巨大ワニは目にも止まらぬ速さですり寄って来る。


「ひ、ひえっ!!」


 間合いを一気に詰められた。

 相手は直ぐにでも、飛び掛かってきそうな雰囲気。


 一方俺にあるのは石斧くらい。

 この巨体で、戦えるのか?

 いや、そもそも戦えたっけ?


「グギャアアアアア!!!」


「ひええっ!!」


 ワニが大口をかっぴらいて襲い掛かってくる。

 それに、俺はとっさに右手を出した。


 すると、ワニの鼻にクリーンヒット。

 しかも、相手は一気に飛ばされて、川に落ちた。


 自分の右手を見てみる。

 傷一つない。


「もしかして、俺めっちゃ強いやつになってる?」


 そうなれば、今日の作業の疲労感のなさも説明がつく。


 単に転生した異世界だから疲れないのか、と思っていた。


 が、どうやら違うらしい。


 単純に「強くなっている」からのようだ。


 しばらくして、巨大ワニは川から顔を覗かせる。


「あ、悪い……」


 別に動物虐待は趣味ではない。

 かといって野生の世界では、強い者がヒエラルキーのトップだ。


「お前を傷つける為に、殴ったわけじゃねえから……」


 相手は近づいてみると、

 そのまま潜ってしまった。


「……悪いことした、か?」


 それはそうと、水路を作るか。


 だが、背後の川からワニの視線を感じる。

 こええ。


 水路が半分くらい完成したとこで、夕方になった。


 家に戻り、獲った魚を焼くことにした。

 今日は手製の藻塩まで用意してある。


 が、いまだにあいつの視線を感じる。


「あいつ、ストーカーかよ……」


 さっきのワニが、ジャングルから見ているのだ。


 何故分かるか?

 尻尾が隠れてないで、草から出ているからだ。

 しかも犬の尻尾よろしく、フリフリしている。


 とりあえず魚をもう一辺取りに潜ってみる。

 十分もしないで、網には二十匹くらい魚が入った。

 ここ、漁協があったなら涙流すくらいの名漁場だ。


「おーい、ワニ公」


 尻尾の動きが止まった。

 人の言葉でも理解してんのか?


「ほら、餌だぞー」


 焼いた魚をワニの方へ投げてみる。

 顔だけ出して、魚を見事にキャッチするワニ。


「何だかサーカスのシャチみたいだな」


 ちょっと可愛く思えた。

 更に魚を投げてみると、よく食べてくれる。


 感心するくらい、食べっぷりがいい。

 そしたらワニの方から出てきてくれた。


「やっぱりデカいなぁ……」


 図体が本当にデカい。

 が、決して凶暴そうでもなく、体を地面につけて、こっちを上目遣いに見ている。


「……ペットにでもするか」


 こうして、巨大ワニがペットになった。


※続きは8/13の12時に投稿予定です。

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