第4話 ごはん、まだ?

 巨大ワニの名前は「アレックス」にした。

 俺の実家のダックスの名前だ。


 でも、図体の大きさにさえ慣れれば、とてもかわいいやつだ。


 まるで犬みたいに甘えてくる。

 それだけじゃない。


 水上を泳げる。


 力もあるから、縄を括りつけて、木を倒せるし曳かせることもできる。


 お陰で家もちょっとしたログハウスみたいになった。

 畑までの道も造れた。


 野生の動物狩りもするようになった。

 野生の山羊を捕まえて、その肉と小腸でソーセージを作ったり。


 更にはシャワー設備を作ったり。

 サウナを作ったり。


 気が付けば、二月くらいは経った。

 今はアレックスの背中に乗って、沖釣りを楽しんでいる。


「いやーアレックスありがとうな」

「グルル……」


 声こそ怖いが、とても従順。


 いいパートナーだ。


 しかも餌は自分で、海や川に潜って取ってきてくれる。

 手間もかからない。


 こうして背中に乗せてくれている時も、暴れないでジッとしていてくれる。


「おー、良い引きだ!」


 そう思って釣竿を引っ張ると、釣り上げたのはイカだった。


「……まあいい」

「グル?」


 釣竿を再び落とす。


 獲物にとったイカは、アレックスの目の前に投げる。


 そのまま舌を使い、器用に食べてしまう。


「……平和だなぁ」


 デスクに向かい、客に向かい。


 常に頭を下げていた自分が、まるで遠い昔のようだ。


 が、しばらくそうしていると、


「グルル……」


 と、アレックスが何かに気付く。


「んー?」


 すると水平の彼方で、凄まじい水柱があがった。


「な、なんだぁ!?」


 釣竿を上げて、立ち上がる。

 水柱が静まると素早く物体が二つ見える。

 しかも、こちらに近づいて来る。


「に、逃げよ」


 手綱をひいて、浜へと戻る。


「人が気分良く釣りしてったのに、なんだいったい?」


 戻ったのは良かったが、沖ではまだ水柱が立ち続けている。


 しかし、目を凝らしてよくみてみると、その正体に驚いた。


「お、女!?」


 褐色肌の女が槍を片手に、水上でバトルしている。


 水の上を走っているのが、とても衝撃である。



 そして、水柱の正体は、一方が作り上げているらしい。

 もう一方は、見た感じ劣勢だ。


「なんなんだ、ありゃ」


 束の間劣勢な方が、立ち上がった水柱に、吹き飛ばされた。


「あぁっ!?」

「グル!?」


 アレックスも思わず唸るその光景。

 飲まれた側は、そのまま目の前の沖に墜落した。


――ドボオオオンッ!!!


 目の前で勢いよく水柱が上がる。


「お、おいおいおいおい」


 急いで浜から沖の方を見る。

 しばらくしたら波に乗り、その墜落してきた女が「漂着」した。


「だ、大丈夫かあんた!?」


 気絶している。

 だが、それよりもその見た目が好みだった。


 褐色の肌に、面積の少ない衣服。

 お尻も胸もすぐ見えてしまいそうだ。

 そして、何と言っても顔が可愛い。


「ど、どうしよ?」


「グルル……」


「と、とりあえず治療しないと」


 そう思い彼女を浜に引き上げた時だ、


「私の勝ちだなアリス!」


 と、沖の方から別の女の声がした。


 そいつは水の上に立っているが、水蜘蛛のようなものを履いている。


 水に浮けるのは、それのお陰らしい。


「ん? 貴様見ない顔のやつだな」


 当然だろう。

 俺だってお前を見た事ない。


「あ、どうもはじめまして」


 挨拶は基本だ。

 だが、相手はそんな事はどうでもいいらしい。


「そこのアリスに言っておきな! 私の勝ちだとな!」


「は、はぁ……。それであなたは?」


「私はスモジュ島のヘレンだ!」


 そう言うと、まるでスケートするように、スイスイと水面を渡り、遠くに行ってしまった。


「……なんだありゃ?」


 しかし、目の前のアリスという女のは、気絶したままだ。


「おい! 大丈夫か!?」


「……うぅ」


 意識はあるようだ。


 家に連れて帰ることにした。


 夕方過ぎ、畑で取れたカブで汁物を作る。

 ジャガイモはヤシの葉で包んで焼いた。


「ま、こんなもんか」


 それの付け合わせに、野兎の焼肉。

 西部開拓時代の人よりかは、ちょっと豪華くらいな食事だろう。


 手製の机と椅子に腰かけて食べていると、


「……んん」


 と、向かいのベッドから声がした。


「お、意識が戻ったか」


 彼女はむくりと起き上がる。


「そうか、私はヘレンに負けて……」


「???」


 話はよく分からない。

 が、何だかあれは戦いだったらしい。


 勝った云々はそのことなのだろう。


「あなたが助けてくれたの?」


「まぁ、そうだな。俺の名前は田中雄平、よろしく。」


「ユ、ユウヘイ?」


 俺は彼女の方へと行く。


「ヘレンだっけか? 私の勝ちがどうとかって言ってたよ」


 すると、彼女は大きく肩を落とす。


「これで私達の島もおしまい、ね……」


「??? どういうこと?」


「今年一年間は全ての漁場の権利を失う。それも私が戦いに負けたからだ……」


「えー、それって漁ができなくなるってこと?」


「そういうことね……」


 彼女はソウファ島というとこの戦士らしい。


 故郷では漁業くらいでしか生計は立てられず、漁場での漁業権を得られるかは、死活問題だという。


さっきの戦いは、その漁業権を得るかどうか、という公式の戦いだったらしい。


「そりゃまぁなんとも」


 のほほんとした異世界だと思っていたら、どうやらそうした争いもあるらしい。


「そんなことより……」


「ん?」


 グウウウ。

 アリスの腹の音が響き渡る。


「ごはん、まだ?」


※続きは8/13の21時に投稿予定です。

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